研究課題/領域番号 |
25420775
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
渡邊 千尋 金沢大学, 機械工学系, 准教授 (60345600)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 巨大ひずみ加工 / 高圧ねじり加工 / 析出硬化型銅合金 / 結晶粒微細化 |
研究概要 |
初年度にあたる平成25年度は,析出挙動の異なる,Cu-Ti系(スピノーダル分解),Cu-Be系(fcc母相に中間相が核形成),Cu-Cr系(fcc母相にbcc-Crが核形成)の3つの合金系を使用し,室温と150℃において巨大ひずみ加工の一つである高圧ねじり(HPT: High Pressure Torsion)加工を施し,その後の析出硬化挙動を調査した. いずれの合金においても,HPT加工により結晶粒径が100nmオーダーまで超微細化し,硬度が大幅に増加した.この時,結晶粒径はCu-Be系合金,Cu-Ti系合金,Cu-Cr系合金の順に結晶粒径は微細化し,加工による強度上昇量と結晶粒径は,溶質原子の原子濃度と対応していた.すなわち,溶質原子濃度の増加により,強度が大きくなり,結晶粒径は微細化した.さらに,Cu-Be系合金においては室温で加工した場合よりも,150℃加工後の強度が大きくなるという興味深い結果を得た.このことより,150℃のHPT加工中にBe原子による転位の固着や,Be原子のクラスタリングが生じていることが示唆された. HTP加工後の各合金に300~350℃の範囲で時効熱処理を行った.Cu-Be系合金とCu-Ti系合金では時効硬化挙動を示したのに対して,Cu-Cr系合金では時効と伴に軟化が生じた.最大析出硬化量はCu-Be系合金,Cu-Ti系合金でそれぞれ,ΔHv=50,100となり,定性的には析出相の形成の容易さと対応した.組織観察の結果,Cu-Be系合金ではG.P.ゾーンが,Cu-Ti系合金ではβ'相が微細に析出していた.これらの析出物の形成により時効硬化挙動を示したことが分かる.また,Cu-Cr系合金ではbcc-Cr相の粒界析出のみが観察され,結晶粒内での析出は認められなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,巨大ひずみ加工による結晶粒超微細化強化と,加工後の熱処理による析出強化を重畳させ,強度に優れかつ延性を保持した合金を創成するための指針を確立する事を目的としている.具体的には,4種類のCu基析出強化型合金を用いて,1) 巨大ひずみ加工条件(温度,速度,ひずみ量),2) 強化相の析出挙動(中間相の有無,核形成またはスピノーダル分解),3) 強化相の体積分率の3つに注目し,これらを系統的に変化させ,結晶粒微細化強化と析出強化を同時に実現するための原理原則を探る. H25年度は,上記で挙げた目的のうち,1)と2)について基礎的な知見を得ることが出来た.さらに,Cu-Be合金において,HPT加工温度が150℃の場合に室温で加工した場合よりも,高い強度が得られるなどの興味深い結果も得ることが出来た.
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今後の研究の推進方策 |
H26年度以降は,Cu-Be系合金,Cu-Ti系合金を用いてHPT加工後直ちに時効を行い,析出挙動の調査を行う.これは,巨大ひずみ加工によって導入された高密度の格子欠陥のうち,空孔濃度は室温程度の低い温度でも平行濃度まで急激に減少することが報告されているためである.併せて,H25年土の結果を受けて,三次元アトムプルーブによる,HPT加工中の溶質原子のクラスタリング挙動についても調査を行う.このことに従えば,HPT加工後,時効を開始するまでの時間によって析出挙動が変化することが予想される. さらに,組成の異なるCu-Ti合金を用いてHPT加工と続く時効挙動のの検討を行う.Cu-Ti合金は,そのTi濃度の増加に伴い,析出物の形成機構が核形成からスピノーダル分解へ変化する.そのため,Ti濃度によってその析出硬化挙動が大きく変化する可能性がある.
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次年度の研究費の使用計画 |
合金試料切り出しに用いる放電加工機の加工ワイヤーが,欠品中で有りH25年度内での納品が不可能であったため. H26年度に入り,上記放電加工機用ワイヤーが納品されたため,すでに上記金額は使用済みである.
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