溶接ヒュームとは、アーク溶接中の溶融池や溶接ワイヤ等から生じる金属蒸気から発生する、ナノ~マイクロメートルサイズの微小粒子である。この溶接ヒュームの低減化は、スパッタの低減化と併せて、長年に亘るアーク溶接技術の解決すべき課題の一つである。特に、新興工業国による低コストの溶接技術が席巻し始めた近年において、新興工業国の追従を許さないクオリティと信頼性の高いアーク溶接技術の開発が急務となっている我が国において、溶接ヒュームとスパッタの低減は、極めて重要な課題になっている。 溶滴移行を伴うGMA溶接では、ヒューム生成を支配するアークの温度場及び速度場ならびに金属蒸気の濃度場等が、時間的に極めて大きく変化することとなる。したがって、ヒュームの低減化及び無害化に向け、溶接プロセスや溶接材料、溶接パラメータ等の違いがヒューム生成機構に及ぼす影響を明らかにするためには、GMA溶接モデルとヒューム生成モデルを完全に連成した新たな数値解析モデルを用いた検討が望ましい。 そこ本研究では上記の連成モデルの開発を行っている。まずは研究のファーストステップとして、純鉄製ワイヤ及び純アルゴンガスを用いたパルスMIG溶接を仮定した計算を行った。その結果、溶滴移行現象やアーク現象に加え、金属蒸気の溶滴からの蒸発やアーク中での輸送、アーク柱外縁部での核生成によるヒュームの生成、その後の凝縮及び凝集による成長、周囲空間への散逸といった一連の現象を同時に取り扱うことが可能となった。更に、本モデルにより、シールドガス種の違いがヒューム生成プロセスに及ぼす影響についても併せて検討した。その結果、アルゴンアークでは主に母材近傍のプラズマ流下流域で微細な粒子が生成されるのに対し、炭酸ガスアークではサイズの大きい粒子が溶滴近傍でも生成され、その割合は全生成量の3割を超えることが明らかになった。
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