研究課題/領域番号 |
25420780
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研究機関 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
栗林 一彦 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 名誉教授 (70092195)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 準安定相 / 過冷凝固 / 無容器プロセス |
研究実績の概要 |
近年、フラッシュメモリーやハードディスクメモリーに代わる新しい概念の記憶媒体として利用可能なmulti-ferroic材料が関心を集めている。multi-ferroic材料とは、ひとつの系で強磁性、強誘電性、強弾性といった“ferroic”な性質を同時に複数有する物質のことである。このような性質を有する物質としては六方晶LnFeO3(h-LnFeO3、空間群:P63cm、Ln:Gd~LuおよびY)が候補として検討されてきたが、準安定相である六方晶を室温に凍結できるのはLuFeO3に限られていた。Luは希土類元素の中でも極めて”rare”で産地も限られていることから、本研究ではLuフリーあるいは低減した物質の探索を目的とした。 h-LnFeO3の生成において鍵となるのはtolerance factor (TF)で表されるLn3+のイオン半径であり、筆者はこれまでにTF<0.87がh-LnFeO3の生成の条件になることを明らかにしたが、Ln3+以外でこの条件を満たすイオン種を特定することはできなかった。この点から本研究ではLu3+よりもイオン半径の小さなイオン種(Sc3+)を混晶化することによりTF<0.87の実現を指向した。ただしSc3+への置換は六方晶から三方晶への相転移を促すことから、六方晶の安定性を高めると同時にLn3+の低減を図る方途として、Ln3+の一部をSc3+に置換することと併せてFe3+の一部をMn3+に置換することにより上記問題の解決を試みた。26年度はLuFeO3に対して実験を実施した。結果はSc3+は50%以下、Mn3+は30%以上置換した場合に、h-LuFeO3は安定に得られる結果を得た。同結果は、27年秋期に開催される第6回微小重力下の物理科学に関する国際会議において発表を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本実験の実施には酸素ガスの使用が不可欠であるが、目下の実験環境は、高圧酸素ガスボンベを室内に持ち込むための設備が整っておらず、建物外のガスボンベ置き場に置いた高圧酸素ボンベから低圧(8~9気圧)に移し替えた小形ボンベを使用している。このため10分を越える実験は不可能であり、試料を小さくすることにより実験時間を短縮した場合でも、実験の実施には3~4回/日の再充填が必用となり、効率が上がらないことが研究の遅れの最大の原因である。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は、先ず研究の遅れの原因である高圧酸素ガスの使用を可能にすべく、設備の整った施設に実験装置を移設して研究のピッチを高め、Lu3+に替わるLn3+としてY3+およびGd3+に対してLuFeO3と同様の実験を実施し、Ln3+の使用量を低減させるイオン種の組み合わせについての定量的解を模索し、研究を総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度に前年度からの繰り越しが生じた理由は、昨年度に報告したように研究の実施場所の変更を余儀なくしたことが原因であるが、27年度に繰り越しが生ずる理由は、新しい研究実施場所においても、遅延理由に示したように実験環境との齟齬(高圧酸素ガスを使用するための設備が未整備なこと等)により、計画通りに研究が進んでいないことが理由です。27年度はこの点を改めるべく、高圧酸素ガスの使用環境が整備されている研究施設(千葉工業大学)に一部の実験装置を移して研究のスピードアップを図ることを計画している。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究の推進するに当たって、当初予定していなかった実験が必用になったことから、先にその分野の専門家(千葉工業大学小澤俊平准教授)を分担者に加える事を申請し、許可を頂いた。これにより一部の実験装置を分担者の実験室に移し、データーを取得する。また実験後の試料の分析等についてはその種の設備の整った宇宙航空研究開発機構にて進める。
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