研究課題/領域番号 |
25420785
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
葛谷 俊博 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00424945)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カルコパイライト / 複合ナノ粒子 / コアシェル |
研究実績の概要 |
量子ドットに貴金属ナノ粒子を組み合わすことで酸化物多孔質基板に対する吸着性の向上を目指し、I-III-VI2族半導体と貴金属からなる複合ナノ粒子の合成に取り組んでいる。本年度はAgナノ粒子とCuInS2複合ナノ粒子の合成とその構造制御を中心に検討を行った。 以下の二通りの方法でAg-CuInS2複合ナノ粒子の合成を試みた。① Ag、CuおよびInのチオール錯体を高還元性のトリオクチルアミン溶液中で加熱分解する。② Ag、CuとIn錯体混合物を加熱分解することでAg合金ナノ粒子を合成した後に、ドデカンチオールを加え加熱硫化する。 ①、②の方法で得られた生成物をTEMにより観察した結果、合成法①ではコントラストの強い粒子と弱い粒子がペアになった複合ナノ粒子が、②ではコントラストの強い粒子をコントラストの弱い層が覆ったコアシェル型複合ナノ粒子が生じているのがわかった。HRTEM像およびSTEM-EDXの分析結果よりコントラストの強い部分は主にAgが主成分であり、コントラストの弱い部分はCu1-xAgxInS2であった。この結果より、合成法①、②共にAgを主成分とする金属ナノ粒子からカルコパイライト相が成長していくものと考えられる。複合ナノ粒子の形態およびカルコパイライト相の組成は共存する配位子に大きく影響を受け、合成法②の場合コアシェルナノ粒子の成長にはオレイン酸が大きく影響すると考えられる。 ①、②の方法で得られた複合ナノ粒子のUV-vis測定の結果、合成法にかかわらずAgナノ粒子の局在プラズモン共鳴に起因すると考えられる強い吸収ピークが見られ、ピーク位置はペア型、コアシェル型の順に低エネルギー側にシフトしていく。これはAgナノ粒子が誘電率の大きいCuInS2シェルに覆われる割合がペア型<コアシェル型の順に増えるためだと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、“カチオン交換法”を駆使し結晶系の制御およびカチオンオーダリング制御について検討を行った。Cu2-xSナノ粒子をカチオン交換によりCuInS2ナノ粒子に転化出来ることを確認している。カチオン交換法により多元系ナノ粒子の合成を行ったところ、交換後の結晶構造は種粒子の構造に依存していることを見いだした。ただし、カチオンオーダリングについてはその構造の差異によるエネルギー変化が小さいため困難であると考えられる。 光電変換素子構築に必要な金属・半導体複合ナノ粒子の合成においては、各金属とチオール基の親和性の違いを利用しAgナノ粒子とカルコパイライト系ナノ粒子の複合化に成功した。また、Ag・Cu2-xSナノ粒子を合成後にカチオン交換によりAg・カルコパイライトナノ粒子に転化する実験を行い、特異な形態のAg・CuInS2複合ナノ粒子を合成した。以上の検討により、界面活性剤を変えることでAgナノ粒子がむき出しになった状態と誘電体である半導体に覆われた状態を作り分けることが可能となった。また形状によってはバイアル瓶壁面に付着する様子も観察されることから、次年度に続く光電変換素子の構築に際して、リンク剤を使用することなく、TiO2多孔質体を染色することが可能であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
有機色素に代わり半導体ナノ粒子を無機色素として導入する。Agナノ粒子(I族ナノ粒子)を色素の官能基(吸着に関わる基)と見なすことができるAg/多元系硫化物複合ナノ粒子の合成に取り組む。界面活性剤を変えることで複合構造の制御を試みたい。この複合ナノ粒子はAg側をTiO2に向け吸着すると考えられる。分散媒を変化させて複合ナノ粒子の吸着性について検討を行う。以上の検討結果を踏まえ、複合ナノ粒子の持つ自己組織化作用を利用し光電変換素子を作成する。電解液としてヨウ素系および硫黄系について検討を行う予定である。変換効率の波長依存性について検討すると共に、電荷の移動機構について分光学的な側面から検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費・謝金の使用がなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
什器の購入に充当する予定である。
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