本年度は、複雑な構造を有する金属半導体複合ナノ粒子の合成に取り組んだ。はじめにCu-Agチオール錯体の熱分解によりCuAgSナノ粒子を合成し、このナノ粒子をInチオール錯体中で加熱することでAg/カルコパイライト系ナノ粒子の合成を試みた。カチオン交換反応によりCuAgSナノ粒子はAg/CuInS2複合ナノ粒子に転化することが出来た。Agは種粒子に含まれているが、UV-visスペクトルの時間経時変化からAgのプラズモンピークが徐々に大きくなるのが観察された。カチオン交換機構を詳しく調べるために、反応途中のナノ粒子をサンプリングしたところ、Ag/CuAgS/CuInS2を経由しAg/CuInS2に変化することがわかった。以上の結果から、CuAgS中のAgサイトが選択的にInと置き換わると考えられる。チオールはCuに対して強い親和性を示すが、今回実施した実験の反応温度域ではAg(0)が安定であるためAgが選択的に置換されるのではないかと考えられる。Agナノ粒子はCuAgSまたはCuInS2相上に析出するのだがS/TEM分析の結果CuAgS上に優先的に析出することがわかった。これは、CuInS2相からCuAgS相への電荷移動を示唆している。CuInS2およびCuAgS相のコンダクションおよびバレンスバンドの位置関係は現時点では不明であるが、CuAgS相のコンダクションバンドの位置はCuInS2相の下にあると考えられる。Ag/CuAgS/CuInS2が自発的に生じることは、このナノ構造が電荷セパレーターとして働くこと意味する。 FDTD法によりAgナノ粒子による電場増強を確認した。Ag@CuInS2コアシェル型ナノ粒子の場合CuInS2表面層およびCuInS2内部で電場の増強が確認された。またCuInS2膜が厚くなるほど光吸収ピークが長波長側にシフトするのが確認された。
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