ケイ酸塩融体および過冷却液体の粘度は、金属精錬をはじめとするケイ酸塩融体を扱うあらゆる工業プロセスにおいて重要である。中でも酸化鉄を含有するケイ酸塩融体は、粘度が鉄イオンの酸化状態(二価または3価)によって変化することが予想されるものの幅広い温度域でのデータはほとんど報告されていなかった。本研究課題では、雰囲気制御が可能なるつぼ回転方式粘度測定装置を試作し、1500度におけるNa2O-SiO2-FexO融体の粘度に及ぼす酸素分圧の影響を測定した。また、酸素分圧が異なる雰囲気で十分に保持した同融体を冷却し、ガラス転移温度近傍でアニールした。得られたガラス試料を対象にDCSによるガラス転移温度およびアルキメデス法による密度測定を行った。 今回試作した粘度装置により厳密な雰囲気制御下において、高精度な測定が可能であることが明らかになった。本プロジェクトで採用したるつぼおよびスピンドルの形状を採用した場合、装置の粘度検出下限は、50mPa・sであった。1500度におけるNa2O-SiO2-FexO系融体の粘度は、酸素分圧が低下するにつれて低下した。測定後試料の構造解析結果(ラマン分光法)より、酸素4配位構造をとる3価の鉄イオンの存在割合が低くなることにより粘度が低下することが明らかになった。また、ガラス試料のガラス転移温度は、酸素分圧が低く2価の鉄イオンが多い試料の方が高い傾向が観測され、このことはガラス転移温度近傍の粘度は、2価 の鉄イオンが多い方が高い可能性を示している。今後、ガラス転移温度近傍における液体構造の温度依存性を解明することが望まれる。
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