研究課題/領域番号 |
25420797
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
空閑 良壽 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60183307)
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研究分担者 |
山中 真也 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30596854)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 湿式粉砕 / 薄膜 / 超音波 / グラフェン / 層数 / 導電性複合樹脂 / 充填特性 |
研究概要 |
天然黒鉛は層間隔0.34nm のナノ構造を有し、層間に様々なゲスト分子が入るインターカレーション反応が起こる。申請者らはこれまでに、2種類のゲスト分子を同時に挿入した黒鉛層間化合物を合成して層間を拡げ、さらに層間にせん断力を加える湿式粉砕法を駆使して、層間剥離を促してグラフェン状の薄片状構造を発現させる方法を開発した。本年度は(1)グラフェン状シートの効率的な生産方法を提案し、(2)導電性複合樹脂のフィラーに適したグラフェン状シート厚を明らかにするため、原子間力顕微鏡によりシート厚を測定する方法を検討した。 具体的には、 (1)ゲスト分子種および湿式粉砕時間を変えてグラフェン状シートを作製した。得られたシートを樹脂に充填して、導電性が発現する充填量(パーコレーション閾値)を求めた。ゲスト分子には従前のカリウムとテトラヒドロフランに加え、本年度はカリウムとエチレングリコールジメチルエーテルについても検討したところ、作製した樹脂膜は、従来と同等のパーコレーション閾値(2~4 wt%)を有することが分かった。すなわち層間距離をわずかに拡げることで、フィラーに適したグラフェン状シートの作製が可能であり、様々な黒鉛層間化合物で本法を利用できると考えられる。また、1~8時間湿式粉砕してシートを作製した結果、すべての条件で同程度のパーコレーション閾値を示した。これまで4時間程度必要であった粉砕処理は、より短時間で済むことが分かった。 (2)AFM観察用試料を調製するため、水を分散媒とした、粉砕法と超音波法を併用する簡便・低環境負荷なグラフェン状シート分散液調製法を開発した。このナノシートの球相当径(ストークス径)は100 nm以下であり、分散液中のシートはほとんど自然沈降せず安定である。AFMによりシートの形状を解析した結果、平均厚さ14 nm、大きさ約2 μmのナノシートが観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、グラフェン状シートの調製とその高分散性導電性樹脂膜の評価を行うための研究基盤を確立することであり、初年度に計画した研究項目は、(1)フィラーに適したグラフェン状シートを作製するため、層間化合物の合成条件と湿式粉砕の操作条件を検討する。(2)層厚を精緻に制御したグラフェン状シートを効率よく生産するプロセスを確立する。の2点である。 これらの計画は、研究実績の概要で述べたとおり、(1)については期待したとおりの成果が得られたものの、(2)においては、原子間力顕微鏡(AFM)を用いたグラフェン状シート層厚の効率的な測定方法の確立に時間を要した。この本研究項目(2)を進める過程で出てきた課題と解決策は以下のとおりである。グラフェン状シートの形状をAFMにより観察したところ、観察条件の調整、およびシート作製時に使用していた界面活性剤除去法の検討に時間を要して、目的の厚さ測定を十分に行えなかった。しかしこの課題は、界面活性剤の影響を受けにくいAFM用カンチレバーの選定、および過剰量の界面活性剤を除去するなど処理方法の工夫によって解決できる目途が立った。 申請者らは、今後の研究の推進方策等で述べるように、グラフェン状シートを効率良く生産するため、黒鉛層間化合物の湿式粉砕時に非イオン性界面活性剤を添加するプロセスを検討している。そこではAFM観察用試料を調製する本技術を利用して、作製したグラフェン状シートの厚さ分布を効率良く測定することが可能になると考えられる。黒鉛は、黒鉛層とインターカラントの積層配列により、さまざまなステージ構造を形成する。したがって、我々が提案する方法では、この特異なナノ構造を利用して、シート層厚を単層から多層まで精緻に制御できる可能性がある。 以上の理由により、本研究は当初の計画どおり順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は主として(1)界面活性剤がグラフェン状シートの分散安定性および複合樹脂膜の導電特性に及ぼす影響を明らかにする。(2) 乾式ミリング条件とグラフェン状シートのコーティング特性との関連を明らかにする。最終的には、導電性バルク体の作製法を提案する。 (1)静電反発効果の小さい非水プロセスにおいては、グラフェン状シートは凝集しやすいため、界面活性剤の導入は必要不可欠である。申請者らはこれまで、非イオン性界面活性剤(TritonX)を湿式粉砕時に添加するプロセスについて検討し、後に作製した複合樹脂膜に高い導電性を確認した。今年度の研究ではさらに、界面活性剤の種類、添加量が樹脂膜の導電性にどのような影響を及ぼすのかを調べる。また黒鉛層間化合物特有のステージ構造に着目して、単層から多層まで層数を制御したグラフェンの作製を検討する。合成した黒鉛化合物のステージ構造と、作製したグラフェン状シートの厚さとの関係を明らかにする。 (2)絶縁体への微量の導電性物質添加による導電性付与を図る場合、パーコレーションを起こしやすい導電性粒子の分散方法およびその制御が重要な課題となる。局所的に導電性粒子が存在することでも効果的に粉体充填層の導電率を制御可能である。そこで、遊星ボールミルの乾式ソフトミリングにより、グラフェン状シートでラッピングした粒子状フェノール樹脂複合粒子を作製する。本研究項目では、グラフェン状シートの添加量が粉体充填層の導電性に及ぼす影響を調べる。粉体充填層の比抵抗値は、粒子径、粒子間の接触形状、表面層の厚さなどのパラメータによって決定される複雑な現象である。そのため、まずは導体球形粒子の粒子径および充填率が粉体充填層の導電特性に及ぼす影響を検討を進め、その後、シートの添加効果を系統的に評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進捗状況はおおむね想定通りであるが、必要な備品および消耗品に関して,当初計画よりも若干少額で対応できた。 小型で取扱い容易な超音波発生器を導入する。これは、今後の研究の推進方策等(1)で述べた界面活性剤の種類、添加量が樹脂膜の導電性にどのような影響を及ぼすのかを調べるためである。本装置を導入して、界面活性剤の種類、濃度および超音波の強度と周波数が樹脂内でのグラフェン状シートの分散性に及ぼす影響について実験的に明らかにする。その他の残りの研究費は、消耗品の購入と成果報告用の旅費に充てる。
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