研究課題/領域番号 |
25420801
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
向井 康人 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30303663)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノファイバー / ナノ粒子 / 分級 / 膜分離 / 繊維径 / 粒子径 |
研究概要 |
本研究で使用するナノファイバー膜の湿式分級用ふるいとしての優位性について検証するため、従来より広く分離操作に使用されている高分子精密濾過膜を比較対照に用いて、それぞれの膜の基本的な分離性能を実験的に調査した。その結果、ナノファイバー膜は次の特長を持つことを明らかにした。(1)従来の高分子精密濾過膜より有効厚さが薄く、空隙率が著しく大きい。(2)同等の孔径を持つ高分子精密濾過膜より水透過流束が圧倒的に大きい。(3)高分子精密濾過膜に匹敵する粒子捕捉性能を持ち、サブミクロンサイズの微粒子の分離に有効である。 さらに、分離の機能を担うナノファイバー層の特性に着目し、ナノファイバー層の形成条件(繊維径、目付量)と基本的な分離性能(孔径、粒子阻止率)との相関関係について実験的に調査した。その結果、次の結論を得た。(1)孔径は繊維径の減少とともに小さくなる。この傾向は、繊維径が小さくなるにつれて繊維層の比表面積が増大することに起因する。(2)孔径は繊維径の約6倍である。(3)粒子阻止率は繊維径の減少とともに向上する。この傾向は、繊維径が小さいほど孔径が小さくなる結果に対応するものである。(4)孔径より小さな粒子でも、ある程度のサイズまでであれば捕捉可能である。これは、複雑な三次元ネットワーク構造により粒子の透過がさえぎられたり、粒子が繊維表面に付着したり、複数の粒子が繊維層内で架橋して目詰まりしたりするためである。(5)分離したい粒子サイズの0.9倍以下の繊維径を持つナノファイバー膜を用いれば、その粒子を完全に捕捉することが可能になる。(6)孔径および粒子捕捉性能に及ぼす目付量の影響はそれほど大きくない。 以上より、ナノファイバー膜は繊維径の調整により粒子の捕捉性能および透過性能を自由にコントロールすることができ、目的に応じた分級性能の制御が可能になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ナノファイバー膜の基本性能である空隙率、細孔径、液透過率、圧力損失、圧縮性などは予定通り評価することができた。また、ナノファイバー膜によるナノ粒子の分級の基礎となる大粒子の捕捉特性ならびに小粒子の透過特性についても予定通り評価することができ、大粒子と小粒子を混合した2成分系の分画特性についての基本的知見を得ることができた。 しかしながら、ナノファイバー材料やナノファイバー層構造の最適化については、現有のエレクトロ・スピニング装置では製造できる条件に制約があり、広範な検討ができなかったため、最終的な目標には到達できなかった。この点を補うには、平成26年度に主要設備として、さらに高いスペックを備えた上位機種のエレクトロ・スピニング装置を導入し、これを用いてナノファイバー材料やナノファイバー層構造の検討をより一層深め、目標の分級性能を得るためのナノファイバー条件を決定する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
主として、次の3点より研究を進める。 1)ナノファイバー膜作製条件の最適化: 主要設備としてエレクトロ・スピニング装置を新たに導入し、前年度に引き続き、種々の高分子材料を原料としてナノファイバーを製造するとともに、種々の繊維層構造のナノファイバー膜を調製し、最適な材質、繊維径、繊維長さ、積層密度、積層厚さ、有効細孔径などの諸条件を決定する。 2)多分散ナノコロイドの分級性能に及ぼす溶媒環境の影響の評価: 広範なイオン強度およびpH条件下において、試料に用いるナノコロイドと作製したナノファイバー膜のゼータ電位や表面電荷、親・疎水性などの物理化学的特性を、レーザー・ゼータ電位測定装置等を利用して測定し、分級性能に影響を及ぼすと考えられる粒子―繊維間相互作用や粒子―粒子間相互作用、ナノコロイドの分散・凝集状態を評価する。このナノコロイドとナノファイバー膜を用いて種々のイオン強度およびpH条件下で湿式分級試験を行い、分級効率に及ぼす溶媒環境の影響を評価する。以上の実験データに基づき、多分散ナノ粒子を分級する上で最適な溶媒環境を決定する。 3)多分散ナノ粒子の分級メカニズムの解明: 膜面上に堆積するナノ粒子層の構造を解析し、これらと溶媒環境との関係を究明することにより、大粒子の表面捕捉メカニズムを解明する。また、繊維層内部へのナノ粒子の付着量と溶媒環境との関係を究明することにより、小粒子の透過および内部捕捉メカニズムを解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
目標の分級性能を得るためのナノファイバー材料やナノファイバー層構造の最適化について検討を進めたところ、現有のエレクトロ・スピニング装置では製造できるナノファイバー条件に制約があり、広範な検討ができなかった。目標とする研究成果を得るためには、さらに高いスペックを備えた上位機種のエレクトロ・スピニング装置の購入が必要不可欠であり、このための予算が必要となった。一方、主要設備として購入予定であった電子制御方式加圧濾過システムについては一旦購入を見送り、現有の加圧濾過システムを改良して代用することとした。ただし、この装置は基本的にマニュアル操作であり、また、適用できるフィルターサイズや試料液量にもかなり制約があるため、今後これを用いて実施する評価試験は、ごく基本的なフィルターテストにとどめることとする。 主として、メック(株)製エレクトロ・スピニング装置SNANシリーズに充てる予定である。
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