研究課題/領域番号 |
25420804
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
加藤 雅裕 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 准教授 (80274257)
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研究分担者 |
中川 敬三 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 講師 (60423555)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | パラジウム膜 / 水素選択透過性 / シリカ / 多孔質SUS支持体 / 耐久性 |
研究概要 |
本年度は、水素選択透過性をもつパラジウム(Pd)膜について、特に、水素透過性向上を実現する薄膜化の方法として、多孔質ステンレススチール(SUS)支持体へ、本研究で採用した2種のシリカ層の導入を試みた。焼結法で形成された多孔質SUS支持体表面は粗く、形成される細孔が均一でない。よって、無電解めっき法によりPd膜を直接形成した場合、比較的大きな細孔をめっき層で閉塞するには、Pdの大きな膜厚を必要とする。そこで、具体的には、ミクロ孔をもつゼオライト層(シリカライト層)もしくは有機シランを用いてメソ孔を付与したシリカ層(メソポーラスシリカ層)で、多孔質SUS支持体表面を被覆し細孔径の制御をめざした。以下を本年度の研究実績とする。 1. シリカライト層は、水熱合成により導入した。多孔質SUS支持体上に、水熱合成1回で約90マイクロメートルのシリカライト層が形成され、室温でのヘリウム透過流束をシリカライト層導入前の値から約350分の1まで低減した。この低減効果は、無電解めっき法で直接Pd膜を形成した場合に必要となる膜厚20マイクロメートルに相当することから、シリカライト層の導入により、約20マイクロメートル相当のPdが削減可能であることを見出した。 2. シリカライトに比べ細孔の大きいメソポーラスシリカ層についても、水熱合成により導入した。メソポーラスシリカ層は、2回の水熱合成で、室温でのヘリウム透過流束を1/10程度まで低減させ、3回では1/100程度まで減少させた。本研究では、メソポーラスシリカ層上へシリカライト層を複層化し、必要最小限の膜厚でPd層を形成することをめざしている。この目的を達成する上で、シリカライト層のベースとなるメソポーラスシリカ層導入によるヘリウム透過流束の低下は、シリカライト層による低減効果と相乗し、2層のシリカ層が効果的に機能するために十分な値と判断される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画段階で予定していたとおり、今後、複層化をめざす2層の中間層(ゼオライト層もしくは有機シランを用いたメソ孔をもつシリカ層)を、それぞれ多孔質SUS支持体シート上に形成した。なお、中間層の上層となるゼオライト層へは、無電解めっき法によりパラジウム(Pd)膜を形成、水素透過試験を実施し、水素の透過機構について検討した。 具体的には、ゼオライト層としてはMFI型のシリカライト層を、有機シランを用いたメソ孔をもつシリカ層としては、セチルトリメチルアンモニウムブロミドを鋳型としたメソポーラスシリカ層を採用した。両層共に、水熱合成により、多孔質SUS支持体上に形成され、層形成による室温でのヘリウム透過流束の低減効果を確認し、来年度実施する、メソポーラスシリカ層上へのシリカライト層形成に必要な知見を得ることができた。 また、上層となるシリカライト層へ無電解めっき法により形成したPd膜の水素透過試験では、支持体上にシリカライト層のみを形成した膜の結果とは異なり、水素を溶解拡散機構で透過していることを確認した。これは、シリカライト層上に無電解めっき法により緻密なPd膜が形成できることを示しており、来年度実施する複層化した中間層上へのPdの緻密膜形成に必要な確認を終えることができた。 よって、以上のことから、本年度予定していた計画がおおむね遂行できており、来年度予定している計画の準備もあわせて進んでいることから、達成度は、「おおむね順調に進展している」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に支持体上に合成したそれぞれの中間層の複層化を実施する。まず、多孔質SUS支持体上へメソポーラスシリカ層を水熱合成により形成する。メソポーラスシリカ層は、25年度の検討により、2回の水熱合成で1/10程度のヘリウム透過流束の低減が可能であったので、まずは2回の水熱合成を採用し、この層上へシリカライト層を水熱合成で形成する。シリカライト層の形成は、メソポーラスシリカ層上へ種処理を行わずに水熱合成することで行う。なお、SUS支持体に直接シリカライト層を形成する場合には、種処理が不可欠であるが、今回は同じシリカ系のメソポーラスシリカ上への合成であることから、メソポーラスシリカ層表層がシリカライト層形成の種となり、緻密なシリカライト層形成が可能となると予測している。 続いて、この複層化されたシリカ層上へパラジウム(Pd)薄膜の形成を無電解めっき法により行う。初年度にすでにシリカライト層上へのPd膜の形成を実施済みであり、水素の透過機構についても検討を行っているので、順調に進行する予定である。本研究では、1回のめっきで膜厚1マイクロメートル未満のPd膜の形成をめざし、高い水素透過性を実現する。 さらに、得られたPd膜について、500時間を越える温度サイクルを加えた水素透過試験を実施し、耐久性を試験する。加えて、中間層がSUSの構成元素のPd層への拡散を制限する拡散バリア層として機能しているかどうかを、耐久試験後の膜を元素分析することで確認する。長時間の温度サイクルによる水素選択透過性への影響が現れた場合には、無電解めっきの回数を増やしPd膜の厚みを増やすことで対応する。また、Pd層への金属拡散が確認された場合には、メソポーラスシリカ層の水熱合成回数を1回増やし、メソポーラスシリカ層の厚みを増すことで、拡散バリア層としての機能強化を図る予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、頻繁にヘリウムや水素の透過試験を実施している。これら試験に用いる配管部品は、昇温や降温を伴う複数回の使用により、シール部位が劣化し水素の漏洩につながる恐れがある。よって、使用時に十分な漏れ試験を実施し、十分な締め付けを行っても改善しない漏れが見つかった場合には、新たに購入したジョイントやシール材等の配管部品との交換を行うことで、実験の安全性を担保している。このように、実験を安全に実施するために不可欠な配管部品を、随時購入する必要があり、継続して実験を行うために準備していた助成金が、次年度使用額として生じた。 生じた次年度使用額については、複層化した中間層を導入した多孔質SUS支持体上に製膜された、パラジウム膜の水素透過試験に用いる配管部品を購入するために、翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する予定である。26年度には、500時間を超える連続した水素透過試験を予定している。この試験時には、特に安全面に注意が必要であり、試験開始に先立って全配管を入念にチェックし、可能な限り、新しいジョイントやシール材への交換が不可欠である。よって、実験の安全を確保するため、これら配管部品の購入に助成金を当てる予定である。 また、翌年度分として請求した助成金については、当初の計画どおり、支持体である多孔質SUSシートや、シリカ層の水熱合成やパラジウムのめっきに用いる試薬、透過試験に用いる各種ガスの購入に使用する。旅費、謝金、その他として学会参加費の支払いについても、当初の予定どおり使用する予定である。
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