研究課題/領域番号 |
25420816
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
多田 豊 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80127456)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超音波化学反応 / 反応工学 / 反応器 |
研究実績の概要 |
定在波局所集中反射板、すなわち凹面反射板を超音波反応器上部に設置し、その状態での音圧測定と数値解析を行った。音圧測定では定在波の集中効果が非常に大きく、ハイドロフォンは損壊し、実測はほぼ不可能であることが分った。音圧分布数値解析でも平面反射板の場合より高い音圧分布が得られた。凹面反射であるため平板より音圧が低い領域も存在するが、中心軸上では約5倍の強度となり、反応器全体の平均音圧も高かった。 ガラス、ステンレス鋼、アルミニウムで、焦点距離の異なる凹面反射板を用いて、空気飽和溶存下でKI反応実験を行った。いずれの場合も、反射板を用いない場合や、平面反射板を用いた場合よりも反応は進んだ。焦点距離が反応器高さの1/2のときに最も反応速度は大きく、平面反射板の場合の1.25倍であった。 超音波の反射率はガラス、アルミニウム、ステンレス鋼の順に大きくなり、音圧解析ではこの順に定在波音圧が高くなり、反応速度もこの順に大きくなると予想されたが、材質による反応速度の差はほとんど見られなかった。 一方、反射板裏面に気泡が付着し、この付着は上記の反射率の順に多くなった。凹面板の場合の音圧は平面板より非常に大きいのに、凹面板の反応速度は凹面板材質による差がなく、平面板の1.25倍にとどまっているのは、反射板裏面付着した気泡のため音波が自由端反射となり、本来の固定端反射となって定在波強度が大きくなることを妨げているためと考えられる。超音波照射では微細気泡が発生し、それが圧潰するときに水分子から水素ラジカルと水酸ラジカルが発生し、それが溶液中の物質を分解する。気泡の発生は超音波反応では本質的なものであり、避けることはできず、超音波音圧が高いほどよく発生する。 逆にステンレス鋼で気泡付着が多いにもかかわらず、ガラスと同程度の反応速度が得られており、凹面反射板による定在波局所集中効果が大きいとも言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
凹面反射板による超音波定在波局所集中ができており、反応器内音圧は高くなり、KI反応速度も平面反射板の場合より大きくなった。しかし、反射率の大きい反射板材質ほど反射板裏面に発生・付着する気泡は多く、定在波強度が反射率に対応して大きくならずに、反応速度は材質によらなかった。 このことは上記の「研究実績の概要」でも記したように、凹面反射板による定在波集中効果は大きいが、気泡付着も多くなって、反応速度増大効果を弱めていることを示している。 超音波照射により発生する気泡の付着を防ぐか、あるいは軽減すれば、反応速度はさらに大きくなると考えられ、凹面反射板が超音波局所集中に有用であることは明らかにできているので、達成度区分を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
凹面反射板により超音波定在波を集中させて反応速度をさらに大きくするためには、発生する気泡の付着を防ぐか、あるいは軽減させればよい。そのために次のことを試みる。 ①気泡は疎水性であるので、疎水性であるガラスや金属の表面を親水性にする、②反射板裏面近傍に気泡が付着しにくい流れを作る、③反応器内の超音波発生振動子と反射板の位置を改良する。 平成27年度は本課題の最終年度であるので、上記気泡付着を解決した後、難分解標準物質であるTPPS(Tetraphenylporphine tetrasulfonic acid)の分解を試みる。TPPS溶液分解のためにはステンレス製反応器を作成する必要があり、反応器内の超音波反射や定在波形成の状態が変わる可能性があるため、反応器内音圧分布解析を行って、適した反応器を制作し、TPPS分解反応を行わせる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成25年度(本課題の初年度)に購入した主たる備品である分光光度計が製造会社(島津製作所)のキャンペーン期間中の対象装置であったため当初の価格より大きく減額されて購入することができた。本年度は当初の計画通りの予算をほぼ使用し、初年度の未使用金額がほぼ残ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は本課題の最終年度であり、当初考えられなかった「凹面反射板による超音波局所集中が強くなればなるほど反射板裏面に付着する気泡が多くなり、反応速度増大を妨げる」という問題を解決するため、反射板や反応器にさまざまな改良を加える。 また、計画の最終目標である難処理標準物質を分解できるステンレス製反応器を制作する。 これらのためにかかる費用は当初の計画より大きくなると考えられ、本年度の未使用額を次年度額と合わせて使用する。
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