研究概要 |
代表者が開発したホスファチジルイノシトール(PI)合成型PLD(PI-PLD)を用いると、ホスファチジルコリンとイノシトールという安価な原料からPIを酵素的に合成可能である。しかしなら、開発したPI-PLDはイノシトールの6個の水酸基に対する位置選択性が完全ではなく、天然型の1-PIに加えて他の一異性体も生成するという問題が有った。本研究ではPI-PLDの位置選択性を向上させることを目的として蛋白工学的改変を試みた。 本研究開始以前に代表者は本酵素の基質結合部位においてイノシトールを受容するポケットの「壁」を形成しているループに着目し、それを構成する6アミノ酸残基を一つずつ他のアミノ酸に置換した変異酵素群を作成し、位置選択性を評価した。その結果、186位と189位の変異が特異性向上に有効であることがわかっていた。この結果を受け、本研究では186位に対する5種の変異体(186V, 186M, 186T, 186L, 186S)、と189位に対する5種の変異体(189L, 189N, 189R, 189W, 189Y)の変異を組み合わせ、5x5=25種の変異酵素を新たに調製し、それらの位置選択性を分析した。その結果、NYRに186T/189W、186S/189W、186L/189Wなる三種の2重変異体の位置選択性の向上させることに成功した。特に、親酵素の位置特異性は1-PI/3-PI比が74/26であったのに対し、186T/189Wでは95/5にまで飛躍的に向上した。 また、PI-PLDの熱安定化を試み、分子表面に存在する不安定ループを除去する(ループトリミング)ことで、70度での半減期を10倍以上延長させることに成功した。
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