研究課題
代表者が開発したホスファチジルイノシトール(PI)合成型PLD(PI-PLD)を用いると、安価なホスファチジルコリン(PC)とイノシトールからPIを酵素的に合成可能である。しかし、PI-PLDはイノシトールの6個の水酸基に対する位置選択性が完全ではなく、天然型の1-PIに加えて他の異性体も生成するという問題があった。本研究ではPI-PLDの位置選択性を向上させることを目的として蛋白工学的改変を試みた。本酵素の基質結合部位においてイノシトールを受容するポケットを形成する6アミノ酸残基を他のアミノ酸に置換した各種の変異酵素群を作成し、位置選択性を評価し、1-PI選択性が飛躍的に向上する変異体の作出に成功した。親酵素の位置特異性は1-PI/3-PI比が74/26であったのに対し、変異体では95/5となった。低温での酵素反応により選択性はさらに向上し、10°Cにおいて1-PI/3-PI選択性は97/3 にまで向上した。また、反応系内に高濃度の食塩を添加すると、高い位置選択性を維持したまま、反応効率が飛躍的に向上することを見いだした。最適化した条件で各種PCからのラージスケールでのPI合成を行い、各種の高純度PIを全体収率30%程度で調製することができた。有機溶媒・水二相反応系において、酵素の界面への結合を調べたところ、高濃度NaCl存在下では酵素が溶媒-水界面に局在することがわかった。このことから、高濃度塩によるPI合成効率の向上は、疎水性相互作用の増強により、水相に溶解している酵素が界面に局在し、基質との接触頻度が増加したことによると結論された。
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