本研究課題では、スギ花粉症をアレルギーモデルの対象として、遺伝子導入ニワトリ卵を用いた経口アレルギー治療を試みた。具体的には、アレルゲンエピトープ融合タンパク質(MHC-Crp-Fc)遺伝子導入ニワトリの産卵した卵白を用いて、花粉症モデルマウスへ経口投与することでMHC-Crp-Fc含有卵の効能を評価した。アレルゲンエピトープは、アレルゲンCry j1とCry j2のそれぞれから多くのスギ花粉症患者で認められる1エピトープを選抜し、分子設計した。これまでスギ花粉症症状を軽減できた治療スケジュールと比較して、投与量・投与期間を低減させても、スギ花粉症モデルマウスの花粉症症状を緩和させることができた。 また、効果的な免疫寛容誘導を期待して作製されたアレルギー抑制性サイトカイン(TGF-beta1)含有卵における潜在型TGF-beta1の発現定量および投与量の検討を行った。大腸菌に生産させ、精製した潜在型TGF-beta1を用いて、卵白中の潜在型TGF-beta1の発現量を見積もったところ、母乳中に含まれる潜在型TGF-beta1濃度よりもはるかに高く、免疫寛容誘導の効果が十分に期待できる濃度であった。 さらに、腸管免疫系への活性化作用を誘導するために、M細胞分化促進タンパク質を発現させた。M細胞分化誘導因子として報告されているRANKLの細胞外ドメイン領域遺伝子を発現ベクターに組込み、形質転換体大腸菌株を用いて生産させ、カラムを用いて精製させることができた。 本研究結果では、アレルゲンエピトープを含んだ卵を産む遺伝子導入ニワトリを作製し、この卵白を食べることでスギ花粉症治療ができることをマウス実験で明らかにし、経口ワクチン鶏卵というトランスジェニック鳥類の新しい可能性を示すことができたと考えている。
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