本研究では、生体分子の特異的相互作用を利用することによって、抗体高機能化を指向する分子連結技術を開発することを目的としている。本年度は、前年度までに構築したヘテロ四量体を形成する二種の短鎖ペプチドの会合を利用したタンパク質連結法について、汎用性の検討を中心に進めた。具体的には、単一抗原の異なる二つのエピトープを標的とする二重パラトープ抗体を作製し、その機能を解析した。まず、がん細胞に高発現する上皮増殖因子受容体に特異的な二種の抗体可変領域に対して、二種の会合ペプチドを各々融合し、大腸菌で共発現させることによって、二重パラトープ抗体を調製した。また、同様の手法を用いて、単一パラトープ抗体を調製し、比較した。ゲルろ過および質量分析を用いて組換え抗体を分析した結果、二重パラトープ抗体および単一パラトープ抗体は、四量体として存在し、主にヘテロ鎖間でジスルフィド結合を形成していることがわかった。表面プラズモン共鳴法により速度論的解析を行ったところ、二重パラトープ抗体の標的抗原に対する結合速度は、単一パラトープ抗体に比べて僅かに遅かったが、解離速度に違いは見られなかった。一方、抗原陽性細胞への結合をフローサイトメトリーにより比較した結果、二重パラトープ抗体では、単一パラトープ抗体に比べて、僅かに大きなピークシフトを観測したことから、二重パラトープ抗体は細胞表面の標的受容体に対して、効果的に作用し得ることが示唆された。以上の結果から、本研究で構築したヘテロ四量体形成ペプチドを利用したタンパク質連結法は、抗体高機能化において汎用的かつ有用性の高い手法であると考えている。今後、本手法の更なる高度化を進め、革新的な抗体医薬創出に向けて展開したい。
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