研究課題
基盤研究(C)
安定性・耐久性に優れ、高出力を長期間保持できる『次世代型バイオ発電デバイス』および外部電源を必要としない『自己発電型バイオセンサ』を開発することを目的として、本年度は、新機能を付与した酵素-有機色素複合体(機能改変酵素)を多孔性炭素電極に固定化し、バイオ発電デバイス触媒としての有用性について検証した。本年度の成果は下記の通りである。1)ブドウ糖酸化酵素をある種の有機色素との混合溶液からマクロカーボン電極に固定化すると、酵素の吸着失活(表面変性)が抑制され、高い活性を保持した状態で酵素を簡便に電極表面に固定化できることを明らかにした。2)酵素と有機色素の結合相互作用を、酵素のトリプトファン残基の蛍光スペクトルに対する色素の消光効果に基づき解析し、結合定数、酵素1分子あたりの色素結合数を算出した。さらに結合の熱力学的パラメータ(自由エネルギー変化、エンタルピー変化、エントロピー変化)を算出し、その酵素タンパク質と有機色素の結合様式が主に静電的相互作用によることを明らかにした。3)ペルオキシダーゼをある種の有機色素との混合溶液から電極に固定化すると、酵素の酸化中間体の直接電解還元反応に由来する還元触媒電流が+0.7V(vs.銀/塩化銀電極)近傍から得られることを見出した。さらにブドウ糖酸化酵素を組み合わせることにより、血中濃度に相当するグルコース濃度および中性条件において+0.7V~+0.3Vで良好な触媒還元電流を得ることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
バイオ触媒分子の高機能化(機能改変酵素)については、数種類の酸化還元酵素(ブドウ糖酸化酵素、ブドウ糖脱水素酵素、果糖脱水素酵素)において、有機色素の結合による安定化効果、電子移動促進効果、触媒電流増幅効果が認められ、バイオ発電デバイス用触媒としての有用性を見出すことができた。現在、高い耐久性・高電流密度を達成するための最適固定化条件・測定条件を探索している。機能改変特性を示した数種類の酵素タンパク質と有機色素の結合相互作用や色素の結合に伴う酵素タンパク質の構造変化を、蛍光スペクトルの消光現象、円偏光二色性スペクトルにより実証した。これにより、各種の結合パラメータ(結合定数、結合数、自由エネルギー変化、エンタルピー変化、エントロピー変化)を算出することができた。DNA-金属錯体およびポリアミノ酸-金属錯体(人工バイオ触媒)については、DNA-銅(II)錯体がアスコルビン酸、チオール化合物、過酸化水素の電解触媒として機能することを明らかにした。バイオ電池燃料として有用な糖類を基質とする触媒活性を付与するため、現在、他の金属イオン錯体の触媒活性を評価している。ヘムタンパク質の酸化還元中心として機能するヘミンを多孔性電極に固定化する手法を確立し、ヘミン固定化電極が良好な溶存酸素の電解触媒として機能することを見出した。さらにこのヘミン固定化3D電極の電解触媒活性に対する阻害効果を利用すると、シアン化物イオンやアジ化物イオンのような呼吸毒の電気化学センシングが可能であることを明らかにした。
バイオ電池の高出力化を実現するためには、電極の有効表面積をできるだけ大きくし、固定化バイオ機能触媒分子が安定かつ高い活性を発現できる新しいバイオインターフェース(バイオ機能界面)を構築する必要がある。そこで、多孔性電極の表面をナノ材料(カーボンナノチューブ、グラフェン、金属ナノ微粒子等)で修飾する。さらに、これらのナノ材料を複合化したナノハイブリッド修飾も行う。これらの3次元(3D)処理により、比表面積の増大、ナノ・マイクロスケールの細孔の形成、バイオ機能触媒分子の固定化量の増加、バイオ触媒電流の増加、多彩な電子伝達系などが期待できる作製した3D電極の電気化学特性を、各種電気化学測定(サイクリックボルタンメトリー、インピーダンス測定)により明らかにする。さらに走査型プローブ顕微鏡を用いた表面の形態観察や、XPS分析による表面元素組成、FT-IRによる表面官能基分析により、作製した3D電極の微細構造を明らかにする。作製した3D電極に、機能改変酵素および人工バイオ触媒を固定化し、バイオ発電デバイス用電極としての基本性能(触媒電流の大きさ、電位、再現性、耐久性)を評価する。バイオ機能3D電極をバイオアノードおよびバイオカソードとするバイオ発電デバイスを設計・構築する。その際、発電セルの構造、電極配置、メディエーターや電解液の濃度や種類およびpHなど、バイオ発電デバイスが高出力かつ安定に作動する条件を確立する。
直接経費2,400,000のうち、電気化学アナライザーおよびアナライザー制御用のコンピューター(合計:2,382,088円)を購入した際、差額として17,912円の残金が生じた。上記の残金17,912円を、次年度助成金の直接経費(1,100,000円)と合わせ、燃料電池評価装置一式および試薬等の消耗品を購入する予定である。
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