研究課題/領域番号 |
25420854
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
内山 賢治 日本大学, 理工学部, 教授 (90281691)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 球形ホイール / 小型衛星 / 姿勢制御 / ピエゾアクチュエータ / 浮上盤 / スライディングモード制御 |
研究実績の概要 |
我が国の公共の安全確保や産業振興には,人工衛星は重要な社会インフラとして必要不可欠なものとなっている.一方,これまでの人工衛星は,質量数トン,寸法も数メートルに及んでいたが,日本では2000年頃から小型衛星の開発・打上も行っており,世界的に見ても人工衛星の小型化が進んでいる.人工衛星の小型化に伴い,センサやアクチュエータの周辺機器もそれに見合ったものが開発されているが,小型衛星では機器を搭載する空間が十分ではなく,新たなシステムの開発の必要性が生じている.本研究は,新たな姿勢制御システムとして,「球体の回転反力を利用して衛星の姿勢を制御する」ことを提案し,そのシステム開発を行っている. 球形ホイールは圧電素子を利用し直接ホイールに力を伝達する方法を採用している.まず,本研究費により購入したインピーダンスアナライザを用いて圧電素子の電気特性を測定し,圧電アクチュエータの駆動周波数を特定した.球形ホイールは,計6個の圧電アクチュエータを用いて駆動され,回転速度は光学センサを用いて測定している.これまでに200rpmまでの回転数制御に成功し,回転方向も自由に変えることが可能となっている.しかし,200rpm以上の回転数や回転方向については十分な制御性能が得られなかった. これまではモデルフリー制御を行っており,試行錯誤を経て制御ゲインを決定していた.しかし球とステータヘッド間の摩耗により摩擦条件が変化してしまうため,これが外乱となり制御性能悪化の要因の一つとなっていた.そこで,当初の予定通り球形ホイールシステムにおける数学モデルを構築し,外乱にロバストなスライディングモード制御の適用を試みた.これらの有効性を数値シミュレーションおよび実験により検証し,その成果を国内外で開催された学術会議において発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では,平成26年度の研究目的として,球形ホイールのモデルベース制御及びその検証実験を挙げていた.平成25年度の実験から,モデルフリー制御では球形ホイールの回転方向および回転制御を安定して行うことが困難であることが分かった.これは,本制御システムの駆動原理から摩擦の影響が大きいと考えられた.そこで,球形ホイールシステムの数学モデルを構築し,そのモデルに対してロバスト制御を適用することで,制御性能の安定化を図った.ピエゾアクチュエータで発生する力を外力とし球形ホイールの運動モデルを構築したが,球形ホイールとステータヘッド間の摩擦については同定することは非常に困難である.そこで,パラメータ変動などに対してロバストであるスライディングモード制御の適用を試みた.数値シミュレーションにより,球形ホイールの回転速度および回転方向について制御性能の向上が確認できた. 次に,球形ホイールシステムを用いて姿勢制御が可能か検証実験を行った.まず,提案した球形ホイールシステムを搭載した小型衛星モデルを製作した.衛星モデルにはオプティカルジャイロ(現有)を搭載し衛星モデルの角速度を計測する.これにより,球形ホイールの角運動量と衛星モデルの角運動量を計測し,角運動量の保存について評価することが可能となっている.なお製作した衛星モデルは浮上盤(700㎜×700㎜,現有)を運動させ,摩擦フリーの状態で平面上を運動させる.衛星モデルにモデルフリー制御を適用した結果,衛星の姿勢制御は可能であったが定常偏差が生じた.これは,球形ホイールとステータヘッド間の摩擦係数を正確に同定できないという他に,衛星モデルと浮上盤に粘性抵抗が働いているためである.そこで,スライディングモード制御を衛星モデルに適用し姿勢制御実験を行った結果,これらの外乱の影響を低減化し,定常偏差のない姿勢制御を実現することができた.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,球形ホイールシステムの数学モデルを構築し,さらに外乱にロバストなスライディングモード制御を適用することで,安定した回転速度制御を実現することができた.また,小型衛星モデルを製作し,球形ホイールシステムによる姿勢制御が行えることを数値シミュレーションおよび浮上盤を用いた検証実験を通して,その有効性を確認した.しかし,球形ホイールの回転方向制御については,その再現性の改善を図る必要がある. 平成27年度では,まず,球形ホイールの回転方向の制御性能を向上させる.球形ホイールの回転方向は,ホイールとステータヘッド間の摩擦力が大きく影響している.そこで,球形ホイールとステータヘッド間の摩耗を低減化するために非金属を用いることで,回転方向の制御性能を改善する.次に,3次元的な回転運動を見るためにジンバル機構を用いたシミュレータ(現有)を用いた実験を行う.球形ホイールの回転によって生じる反力を既存のセンサにより計測し,各軸周りの角速度を算出することでシミュレータ装置を駆動する.小型衛星が回転運動を行うと,内部に設置されたオプティカルジャイロから角度と角速度情報が出力され,これを内部のコンピュータで処理し,制御則にしたがった出力信号を球形ホイールに送るり,球形ホイールシステムの有効性を検証する.
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