本研究では,洋上において風車ハブ高度の風況を安価且つ安定して推定可能な「ブイ観測・数値計算ハイブリッド型洋上風況調査システム」の構築を行った. 1年目は,ドイツ北海沿岸の気象マストFINO3の観測値及び港湾空港技術研究所波崎桟橋上でのライダー観測値を用いて,10m高度風速観測値を80m高度風速へ変換する際の精度について検証した.鉛直プロファイルには,モニン・オブコフ相似則に基づく鉛直1次元モデルとメソ気象モデルWRFの計算値に基づく3次元モデルの2つを使用した.その結果,FINO3と波崎の海風時にはいずれのケースも高い推定精度が得られる一方で,波崎の陸風時には1次元モデルの推定精度が著しく悪化することが示された. 2年目は,陸風時のメソ気象モデルWRFの鉛直プロファイルの精度向上が本システム開発の鍵であると考え,乱流スキームの選択,4次元データ同化の設定,計算領域の設定等の観点から計算手法を検討した.その結果,鉛直プロファイルの面からはLESよりもRANSの方が高精度であること,大気境界層内の4次元データ同化はしない方が良いこと,第1計算領域が狭すぎると精度が悪化すること等が明らかになった.また低高度風速として人工衛星の海上風観測値を使った場合でも,本研究の手法を用いればWRF単体よりも高い精度が得られることも明らかになった. 最終年度は,ブイの運動を模擬的に再現可能な動揺シミュレーター上に超音波風速計とジャイロを搭載することにより,ブイ上での風速観測値に対する動揺影響の評価を行った.その結果,10分平均風速値に対してはブイの運動は大きく影響しないことが明らかになった.陸風時の鉛直プロファイルの再現性には問題が残ったものの, 海風に対しては,ブイ観測値とWRF計算値を併用する本システムにより,15%以内の誤差(RMSE)で風車ハブ高度の風速を推定できることが確認出来た.
|