本研究の主目的は、プロペラ前方の旋回流を含む船尾伴流中において流体力学的に最適なプロペラの設計を支援するツールの開発である。 まず、プロペラ前方の旋回流が推進性能に及ぼす影響を基礎的な実験によって明らかにするために、円筒にアスペクト比の大きな8枚のフィンを周方向に45度間隔で放射状に取り付けることにより、プロペラの回転方向とは逆向きの旋回流を発生させる装置を製作し、翼輪郭を数式で表した単純形状プロペラの前方にこの装置を配置して九州大学の高速回流水槽においてフィン後方の伴流分布の計測ならびに一様流および旋回流中プロペラ性能試験を行った。本実験より、旋回流中では主としてプロペラ回転数の低下が原因となって少ない伝達馬力で一様流中と同じ大きさの推力を発生させることができること、旋回流中では有効伴流率の増加が顕著であることを推力一致法による解析によって確認した。 次に、新たに開発した応答曲面法と実数値遺伝的アルゴリズムを用いたプロペラ翼形状の最適化手法を組み合わせ、従来よりも最適化に要する時間が格段に短い、伴流中でのプロペラ設計支援ツールを開発した。 最後に、プロペラ前方のフィンによる自航時の船体抵抗増加によりフィンが装備されていない場合に比べプロペラ推力が増加すること、旋回流によるプロペラ回転数の過度な低下は船舶の運航上望ましくないことを考慮し、前述の実験における一様流中のプロペラ回転数を保ったうえで、フィンによる抵抗増加量を仮定して算出したプロペラ推力を与え、前述の実験により計測された伴流分布の各半径位置における周方向平均値を入力してプロペラの翼形状最適化を行った。そして、フィンの抵抗増加量を考慮しても、旋回流中でプロペラ回転数を低下させずに翼形状の最適化を行ったプロペラの伝達馬力は、フィンが装備されていない場合の原型プロペラの伝達馬力より減少することを確認した。
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