研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、条件をさらに広げた重イオン照射試験を行った。核融合科学研究所で製作した、V-4Cr-4Ti合金共通試料NIFS-HEAT-2を対象とした。九州大学応用力学研究所の重イオン加速器を用い、2.4 MeV Cuイオン照射を行い、照射後の組織観察を応用力学研究所および核融合科学研究所の透過電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光器を用い、転位ループの密度、サイズの変化、析出の発生の有無を求めた。さらにJMTR, BR2, JOYO中性子照射組織、電子線照射組織と比較し、異種照射間の相関を求めた。 今年度は10 dpa までの照射、673 Kの照射が新たに加わった。 473Kにおけるイオン照射で観察された組織はほとんど転位ループあるいはドットイメージであった。微小な欠陥の観察のため、暗視野弱ビーム法による観察を併用した。10 dpaまでの照射量の増加に伴い、ループは転位ネットワークへと発展した。 673Kにおける重イオンと中性子照射の比較は、両者の照射速度の違いの効果が明瞭に現れた。すなわち、照射速度の遅い中性子照射では、格子間原子の導入量が少なく、まずTiの析出物が形成し、結晶中<100>方向に延びてゆく。これらが発達したのち、その周囲に転位ループが発生し、方向性のある転位ループチャンネルが形成する。一方照射速度の速いイオン照射では、過剰に導入される格子間原子によりまず転位ループが形成する。そののち、別にマトリックスに析出が発生する。転位と析出の相互作用は明確に現れない。 このような組織発達の過程の違いは、イオン照射によって中性子照射効果を予測するときの重要な課題である。特に析出と転位ループの競合過程における課題は原子炉圧力容器野脆化でも議論されており、共通のメカニズムとして示唆を与えるものである。
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