核融合中性子照射環境を許容する低放射化MgB2線材の導体化に向けて、核種変換のないB-11同位体粉末をホウ素源としたMgB2素線を使用した大型導体設計の基本的な指針となる臨界電流特性における機械ひずみ印加効果について研究を行った。 まず、前年度の成果に基づいて、平均粒径の細かいB-11同位体粉末を用いたMgB2/Ta/Cu多芯線材を作製し、4.2K及び磁場中での臨界電流特性を評価した。天然ボロン粉末と同様に、ボロンの粒径が細かくなるに応じて、磁場中の臨界電流特性は向上することを確認した。また、SQUIDによる磁化率の測定の結果、B-11同位体の化学量論組成よりも若干プアな組成にて最大の磁化幅が得られ、生成したMgB2の体積分率が向上していることが示唆された。このように、B-11同位体粉末を用いた場合でのB-11同位体の最適化が進んだ。 一方、大型MgB2導体設計に向けて、重要な設計因子である臨界電流特性のひずみ依存性について検討するために、東北大金研にて引張ひずみを印加しながらMgB2/Ta/Cu多芯線材の臨界電流測定を行った。0.3%程度の引張ひずみを印加し除荷しても臨界電流特性に変化は見られず、MgB2/Ta/Cu多芯線材は0.3%程度の不可逆ひずみを有していることが示唆された。比較的高い不可逆ひずみ特性は、マトリックスであるTaが強度的に高いためであると推察できる。 最後に、簡易的に低温・強磁場下で曲げ及び引張ひずみを印加しながら臨界電流測定が行える試料プロ-ブを設計し作製した。今後は、東北大金研の装置と連携しながら作製したプロ-ブを有効に展開して、大型MgB2導体設計に向けた詳細なひずみ依存性を見出す。
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