研究課題/領域番号 |
25420926
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
西宮 伸幸 日本大学, 理工学部, 教授 (90283499)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 水素貯蔵材料 / 水素輸送システム / マグネシウム / 酸化ニオブ / カプセル化 / 耐水性 |
研究概要 |
水素吸蔵合金Mg-10%Niに室温で水素吸蔵させ、300℃程度で水素放出させるための触媒を探索した結果、Mgを合金化する前のMgの段階では、Nb2O5が最適であることがわかった。また、Mg-Ni合金とした後では、Nb2O5が触媒として作用しないことがわかった。前者の知見は、3d金属および4d金属の酸化物のうちでNb2O5が触媒として最良という文献知見と一致するものであるが、水素吸蔵量は室温、1MPaで5mass%程度であり、飽和量として予想される7.6mass%に及ばなかった。NiとNb2O5が両立しないという知見は新規なものである。この不両立性は、ボールミリング混合の際、MgにNiおよびNb2O5を同時に加えても、逐次加えても、どちらでも成立する。水素吸蔵量が飽和に達していないのは、試料の活性が低いのが原因である可能性が高いが、逆に活性が高すぎて、試料取り扱い時の不活性ガス雰囲気を提供している窒素ガスと試料が反応している可能性を否定できていない。 また、文献では、Mg-Nb2O5系の速度論的な知見ばかりが紹介され、平衡論的な情報が開示されていないが、ボールミリングの条件によってはMg-Nb2O5系に広範囲のプラトーが存在することがわかった。横軸が固相中の水素濃度、縦軸が平衡水素圧という形で状態図を表わしたとき、水素濃度が変わっても圧力が一定となる領域をプラトーとよぶが、これが出現したということは系の自由度が1になったことを意味し、Mg-Nb2O5系に何らかの定比化合物が形成されたことを示唆する。 従来処方でカプセル化したMg-Nb2O5試料をデシケーター中で2ヶ月保存したものは経時劣化が無かったが、水に対する反応性は高く、Mgが酸化されて水素を発生することがわかった。環境空気中で取り扱うためには耐水性の付与が必須である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Mgに室温で水素吸蔵させるための触媒として、文献で報告されているNb2O5が最適であることがわかった。触媒の選定はこれで完了した。 Mgの水素吸蔵速度を速め、水素放出温度を下げる目的でNi添加した、Mg-10%Niの研究室内標準化は順調に進んだ。Mgインゴットの削りくずを出発試料とする場合、Mg粉末試薬を出発試料とする場合、およびMgH2粉末試薬を出発試料とする場合の3者について標準化手順が確立できた。3者の水素吸蔵速度および水素吸蔵量はほぼ同一であるが、MgH2となった場合の飽和量である7.6mass%に及ばず、吸蔵量は5mass%程度と少ない。窒素雰囲気を不活性雰囲気ととらえている点に問題がある可能性がある。 試料混合は専用ボールミルで行なえるようになったため、異種金属による汚染がなくなり、容器のアルミニウム軽量合金化により、処理回転数350rpmも可能となっている。しかし、MgとNb2O5の混合効果は文献知見に沿うものであったが、さらにNiが共存すると室温では水素をほとんど吸蔵しなくなった。単純な混合に代えて、Nb2O5の前駆体を添加する方法や、カプセルのほうにNb2O5を移す方法などを試みている。 従来の処方でカプセル化処理されたMg-Nb2O5は水に対する反応性が高いため、膜圧の増加、脂肪族の疎水性基の導入などの対策を試みているが、新処方の確立はできていない。シリカ成分をゼオライト骨格に変更するゼオライト-シリコーンゴム複合被膜へのグレードアップは道半ばである。 また、カプセル被膜と同じものを膜状にして分離係数を測定する計画も道半ばである。メンブレンフィルターを基板とし、Ti-Zr-Fe合金膜をプラズマ蒸着してガスタイト水素選択透過基板を作ってから本研究の被膜を評価する計画であったが、蒸着膜に光沢があってもガスタイトにならないため、被膜の評価にはいたっていない。
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今後の研究の推進方策 |
従来処方でカプセル化処理されたMg-Nb2O5は水に対する反応性が高く、膜の緻密化や疎水化が必要であることがわかったため、第2年度計画のフッ素原子導入による低表面エネルギー化と組み合わせて、耐水性の付与を効率的に推進する。 また、当初計画では触媒効果を殺さないようなカプセル化手法を予定していたが、一歩進めて、触媒効果をカプセルにもたせることを考える。たとえば、前駆体分解法Nb2O5を作る。NiもNb2O5も単に水素を解離させる役割ならば、両立不可とはならないはず、と考えた。水素解離の役割のほか、MgOの緻密酸化膜に欠陥を入れるのがどちらかの役割だと考え、欠陥生成機能を有するほうをMgと混合し、他方の水素解離機能を有するほうを被膜に入れようという発想である。解離された水素は空間をスピルオーバーする現象が知られているため、可能性は十分と考えている。 第2年度に予定している固気二相流式反応は、水素吸蔵材料の処方確立後に本来は行なうべきであるが、現行の5mass%級の試料で開始し、処方の発達とともにバージョンを上げていくやり方としたい。また、当初予定の粉末500gの実験は50gに縮小したい。水素吸蔵材料を市販のMgH2を原料として作製した場合、その金額が過大(500gで425,000円)となるためである。
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次年度の研究費の使用計画 |
差額理由は、発表に適切な学会が平成26年度開催の”IDHEA”および”MH2014”であるためである。フランス開催の”IDHEA”では、本研究と共通のマグネシウムを用いた水素貯蔵システムをフランスのMcPhy社が売り出しているため、旧コンセプトでもどこまでできるのか見極める必要があるのが最大の理由で、筆者がこれに招待されたことが追加理由である。”MH2014”は基礎論に力を入れたものであるため、Mg-Nb2O5系の定比化合物という新現象を討論するには最適である。 5月12日から14日までフランスで開催される”IDHEA”-International Discussion on Hydrogen Energy and Applications- に参加し、招待講演を行なうとともに、本研究と共通のマグネシウムを用いた水素貯蔵システムの市販を開始しているフランスのMcPhy社の技術水準を見極めてきたい。”MH2014”は基礎論に力を入れたものであるため、Mg-Nb2O5系の定比化合物という新現象を討論するには最適であるため、一般参加したい。
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