マグネシウムを基材とする水素貯蔵材料を空気輸送可能な複合材料とすることを目的とし,Mg-Nb2O5 系の粉末をソフトゾルゲル法 (SSG) 由来の被膜でカプセル化した材料を開発した。この材料を,種々の形態の反応管に入れて評価し,水素の流れこみ方によって水素吸蔵量や反応速度が変化することを見出した。水素吸蔵合金を小麦粉のように扱って,エネルギー媒体としての水素を安全に効率よく貯蔵・輸送するための基礎技術が提供できたと考えている。 水素吸蔵合金としては Mg-10%Ni が著名であり,マグネシウムの水素化反応触媒としては Nb2O5 が公知であるため,Mg-10%Ni-Nb2O5 系が優れていても不思議はないが,最初に評価したところ,ニッケルと Nb2O5 とは両立しないことがわかった。また,遷移金属を基材とする水素吸蔵合金では耐空気性 (対酸化性) および耐水性の付与が可能な SSG 法がそのままでは Mg-Nb2O5 系には適用できず,水蒸気共存水素中ではマグネシウムの加水分解をまだゼロにできていない。なお,SSG法とは,テトラエトキシシランを加水分解して得たゾルとジメチルジメトキシシラン由来のシリコーンゴム前駆体をブレンドした処理液に水素吸蔵合金の水素化物を浸漬してカプセル化する処理法である。フッ素含有シランカップリング剤の添加により耐水性が向上する改善の方向性だけは確認できている。 通常は耐圧容器を必要とする水素貯蔵材料を小麦粉のように扱う前には,静電気を逃がして安全を確保する方法の開発が更に必要である。静電気を逃がす役割を念頭に置いて鉄との複合化を試みたところ,意外にもアンモニア合成のルートがあることが波及効果として得られた。また,紫外光を照射すると水素放出反応が低温化する現象も波及的に見出している。
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