研究実績の概要 |
ショウジョウバエ脳の1%のニューロンにオス特異的に発現する転写因子Fruはオスの性行動を制御する神経回路を作る。その回路を構成するニューロン群には神経突起の投射、細胞数に性差が見られるが、その形成メカニズムは全く不明であり、本研究の目的はその仕組みを明らかにすることにある。 マウスの脊髄やショウジョウバエの腹部神経節の交連ニューロンでは軸索が正中線を越えて投射するか否かを軸索投射因子Robo1が制御している(Cell 92, 205 (1998); Neuron 412, 213 (2004))。申請者は平成25、26年度に1) オス特異的に発現するFruがrobo1プロモーターに直接結合しrobo1発現を抑制すること、2) Robo1は性的二型ニューロンの一つ、mALニューロンのオス特異的な神経突起の分岐を抑制すること、3) robo1のFru結合配列を欠く変異体オスは求愛の際メスに対して左右の翅を交互に振り続ける異常行動を示すことを明らかにした。変異体オスではFruが結合できないためRobo1が発現しmALニューロンの神経突起がメス化、求愛行動異常が起きたものと考えられる。そこで、申請者は今年度さらに以下の事実を明らかにした。4) オスのmALニューロンは約30個のニューロンで構成されているが、Fru結合配列を欠く変異体オスではそのニューロンの多くがオス特異的な神経突起を消失していた。5) 変異体オスのmALニューロンのRobo1発現をrobo1ノックダウンにより抑制すると求愛行動異常が完全に消失した。オスがメスに求愛する際、メスのフェロモンはオス前肢の受容細胞が検出後mALニューロンに伝達する。さらにmALニューロンは左右どちらの肢からの入力が強いかを判別し、メス側の翅を振るように出力する(Curr Biol, 20, 1 (2010))。従って、mALニューロンのオス特異的な神経突起は左右どちらの肢からのフェロモン情報が強いかを判別するのに重要な役割を果たしているものと考えられた(Curr Biol印刷中)。
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