microRNAを利用した遺伝子発現の特異的抑制(ノックダウン)技術を利用して、小脳バーグマングリア特異的にATP受容体の発現をノックダウンすることを試みたが、残念ながら、研究期間内にATP受容体を効率よくノックダウンするmicroRNAの配列を見つけ出すことが出来なかった。しかしながら、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いてマウス小脳バーグマングリア特異的に遺伝子導入を試みる実験を行う中、Tet offシステムとAAV二重感染法の技術を組み合わせて、通常AAVで導入できる遺伝子サイズがプロモーター部分を含めて4kb程度に限定されているところ、そのサイズを実質上増やしてグリアに発現させることが可能な方法を開発することができた。この手法では、どの細胞でその遺伝子が発現するかを決定するプロモーター部分と、発現させたい遺伝子(目的遺伝子)自身の部分を分離して、それぞれ別のAAVベクターに搭載して二重感染を行い、Tet offシステムを利用して、両方のAAVベクターが同じ細胞に感染してそれらの遺伝子を2つとも導入した時にだけ、その目的遺伝子が発現されるようにする方法である。 この方法を用いると、導入できる遺伝子サイズが実質上大きくできる利点がある一方、理論的に予想される発現パターンと異なる異所性の発現パターンが生じうるデメリットも明らかになった。この異所性の発現が増加する要因を検討し、この技術を用いる際に気をつけなければならない点などを明らかにした。AAVを用いた遺伝子導入の技術は、ヒトに対して遺伝子治療を行う際にも使用されており、研究上のツールとしてだけでなく、臨床的にも非常に重要な技術である。したがって、AAVを用いた遺伝子発現の技術の長所と短所を実験的に明らかにしておくことは大きな意義を持つと思われる。本研究で開発した技術の長所と短所をまとめ、その成果を学術誌に論文投稿する準備を行っている所である。
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