本年度は大脳高次視覚野のV4およびMT/V5内の、固視点右下方5度~20度の受容野を持つ局所領域に狂犬病ウイルスを注入した眼球標本から網膜フラットマウントの作成を行い、その解析を行った。1部の標本ではコントロールの眼球と同様に、その元々の形状から丸まってしまうマカクサルの網膜を視神経乳頭部、黄斑部を中心に複数のパーツに分けた。左眼の標本でV4を2眼、MT/V5を1眼検討した。フラットマウントでは黄斑中心窩の左上方に標識細胞が認められた。それ以外の周辺部網膜には標識細胞は認められなかった。個体の還流・固定の時間から、V4は3次ニューロン結合、MT/V5は2次ニューロン結合を持つ細胞が標識されると考えられ、先行研究の結果と合わせ網膜と高次視覚野であるV4およびMT/V5とは、最も少ないシナプス数としてそれぞれ3次ニューロン結合、2次ニューロン結合で連絡をもっている可能性が考えられた。今後、先行研究で得られている外側膝状体、V1での標識細胞数と比較することで定量的評価を行う。また、この網膜フラットマウントでは深さ方向の情報が得られないため、僚眼である右眼の標本を用いて、標識細胞が集積していると考えられる部位の薄切標本を用い、深さ方向の検討、および標識された細胞が網膜神経節細胞のどの種類に該当するのか等を検討する。以上の結果から、網膜神経節細胞から大脳高次視覚野に至る多シナプス性ニューロンネットワークに関して新しい知見を得ることで解剖学的神経基盤の一端の解明を目指す。
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