研究課題/領域番号 |
25430007
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
田中 宏和 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 准教授 (00332320)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 計算論的神経科学 / 第一次運動野 / 前頭頭頂運動ネットワーク / 神経活動 / 視覚運動変換 / 到達運動 / 運動適応 / 小脳 |
研究実績の概要 |
H25年度には、従来の関節角表現ではなく身体の空間ベクトル表現に基づくニュートン・オイラー力学により第一次運動野(M1)が視覚運動変換を行っているという計算論モデルを提案し、運動野神経活動の多様な性質を説明した。H26年度は上記モデルを拡張しヒト運動適応のモデル化を行い、二種の運動適応(キネマティクス適応・ダイナミクス適応)を統一的に記述できることを示した(Tanaka & Sejnowski, 2015)。これらの成果を踏まえ、H27年度は運動野神経活動に関して提案されている計算論モデルに関して、本グループや他グループから提案されているモデルを詳細に比較・検討を行った(Tanaka, 2016)。これらは(1)最適制御モデル、(2)ニューラルネットワークモデル、そして(3)空間ベクトル表現モデル、に大別される。最適制御モデルやニューラルネットワークモデルは第一次運動野の神経活動を部分的に説明するものの、運動前野・頭頂葉・小脳といった他の運動関連部位の計算的役割に関しては明らかではない。一方、本グループが提案する空間ベクトル表現モデルは、頭頂葉・前頭葉運動ネットワークでどのように計算されているかに関して以下のような系統的な描像を与える。頭頂葉到達運動領域で目標物の視覚情報が処理され、前頭葉運動前野で各体部位の位置情報が計算され、それらを用いて第一次運動野で力学の計算に必要なベクトル外積が計算される。提案モデルを拡張し、現在の身体状態と運動指令から次の時刻での身体状態を予測する内部順モデル計算が小脳皮質・小脳核でどのようになされるかに関して研究を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度では、ヒト到達運動における視覚運動変換と運動適応のモデル化ではキネマティクスとダイナミクスの運動適応を一つの計算論的枠組みで説明することに成功し、学術論文として発表することができた。これは平成26年度研究実施計画で記述した心理物理実験結果からの計算論モデルの検証である。また、H27年度は第一次運動野に関して提案されている複数の計算論モデルを比較・検討し、その生理学妥当性を検討した。その検討結果に基づき、本グループが提案する計算論的モデルを拡張し、頭頂野での目的指向表現・運動前野での身体座標系表現・第一次運動野でのベクトル外積表現を提案し、既知の神経活動と比較を行いモデルの妥当性を検証した。さらに、空間ベクトル表現がどのように小脳の内部順モデル計算に用いられているかの検討を始めている。これらの結果から本研究は当初の計画通り順調に進展しており、第一次運動野を含む運動関連ネットワークを理解する正しい方向に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
計算論モデルで提案する視覚運動変換が脳の運動関連部位(前頭葉・頭頂葉・小脳)とどのように対応付けられるかを既知の神経生理実験結果から詳細な検証を行う。今後は、前頭葉・頭頂葉・小脳を含む運動野ネットワークの統一的計算モデルを提案する。H27年度で行ったモデル間の比較・検討を基に、提案モデルを精緻化・大規模化し、電気生理実験で検証できる形で数値シミュレーションを行うことを計画している。計算論モデルと神経活動の比較を通して各運動関連部位がどのような計算論的役割を担っているかを解明することを目標とする。特に身体の予測モデルである順モデル計算が頭頂葉5野と小脳でどのように行われているかを詳細に検討する。既知の神経活動との比較に加えて、神経生理学者との議論を通じて計算論モデルを積極的に検証する実験の提案も予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
既存の研究設備と研究資料により研究を推進し、予定使用額以下でも十分な研究が遂行できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
【旅費】運動野視覚運動変換モデルに関する研究成果を発表するための研究会や国際会議参加、またモデル構築の研究討論のための経費として使用する。【物品費】視覚運動変換モデル研究のためのPC・資料・ソフトウェアを購入する。【その他】論文投稿料や学会登録費として使用する。
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