研究課題/領域番号 |
25430013
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
塚元 葉子 (藤原 葉子) 玉川大学, 脳科学研究所, 嘱託研究員 (90209130)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脳波 / 大脳皮質 / 錐体細胞 / 線条体 / 中型有棘神経細胞 / インビボ / パッチクランプ / 無麻酔 |
研究概要 |
脳波とは、大脳皮質ニューロンに発生するリズム性の電位変化を巨視的にとらえたものであり、様々な周波数帯域の波形から構成される。現象論的に、脳波が様々な高次機能と密接に連関した周波数を示すことが分かっており、その電位変化は「樹状突起に起こるシナプス後電位が集積されたもの」と教科書的には説明されているが、いまだその波形の成り立ちについての詳細は明らかになっていない。したがって、当然ながら皮質ニューロンのうち、2/3層、および5層の錐体細胞、さらには介在細胞のうちの、どのニューロンへの入力が脳波波形に対する貢献度の高いものなのか、などの疑問に答えられる知見も皆無である。 本研究課題は、「無麻酔」のラットの脳波を記録しながら、主に運動野錐体細胞の膜電位変化を、インビボホールセルパッチクランプ法を用いて記録し、課題遂行時などにおける脳波と膜電位やシナプス入力との連関を解明することを目的として申請され、採択された。 初年度(平成25年度)は研究実施計画にのっとり、まずは覚醒ラット大脳皮質ニューロンからのホールセルパッチクランプ記録の技術の改良と安定化に努めた。その過程において、パッチ電極をさらに深く挿入すれば、線条体ニューロンからの膜電位記録も可能であることが明らかになったので、これらについても記録を行うこととした。すなわち、皮質-線条体神経回路と脳波との連関についても検討を加えることとした。最初の解析対象脳波として、動物が覚醒状態でありながら無動状態である時に特徴的に現れる8Hz前後のhigh voltage spindle に着目し、この脳波と大脳皮質5層錐体細胞や線条体中型有棘神経細胞の膜電位との連関の解析を目標に実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①研究代表者は無麻酔脳定位固定動物を用いたインビボホールセルパッチクランプ法を用いた大脳皮質5層錐体細胞膜電位記録に習熟し、成功率が年度当初に比べ格段に上昇している。さらに、ガラス電極の改良などにより、脳表面から3ミリ以上深い位置にある線条体においても中型有棘神経細胞(MSN)の膜電位記録を可能とした。 ②脳波記録用電極は、パッチクランプ用電極の取り回しに支障が無いようにマニュピレータでの操作を避け、接地・参照電極と同様の埋め込み型に工夫した。さらに、安全策として2本用意することで実験の成功率を高めた。2本とも良好な状態の場合には片方を電気刺激用電極としても用いることができるようになった。 ②覚醒動物が無動状態であるときに特徴的に出現するhigh voltage spindle (HVS)脳波を記録することに成功し、これと同期する膜電位が、大脳皮質5層錐体細胞および線条体MSNから、コンピュータ解析するまでもなく目視にて確認できるほど明瞭に観察できている。 ③組織学的実験を連携研究者である同志社大学・藤山文乃教授の指導・協力のもとに進めた。その結果、バイオサイチン5mMを注入された記録細胞を、ディアミノベンジジンを発色基質としたアビジン-ビオチン複合体法により可視化し、その存在位置や形態的特性による細胞種を同定することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
①平成25年度に習熟した実験技術を用いて、26年度も引き続きコンスタントに実験例数を蓄積する。また、深い膜電位と大きな活動電位を長時間維持し、コンピュータ解析に耐えられるデータ長をコンスタントに取るための工夫を行う。 ②線条体のニューロン活動の細胞外記録と皮質脳波の解析から、HVSは腹側線条体に比べ背側線条体により強く出現することが報告されている(Berke et al 2004)。そこで、背側線条体MSNと腹側線条体MSNの膜電位の相違が比較できるよう、より深い腹側線条体での膜電位記録を可能にする。 ③線条体の高頻度発火GABA作動性介在神経がHVSの同期的活動をリクルートしている可能性があることが報告されている(Berke et al 2004)。そこで、大脳皮質錐体細胞や線条体MSNの膜電位に発現するHVS関連膜電位振動がGABA作動性入力によって振動しているのかを確かめるために、高クロライドパッチ内液を用いる予定である。もし、GABA作動性周期的入力によって律動性が発現するのなら、細胞のGABA応答を興奮性に逆転させれば膜電位は正常なHVS関連振動を示さなくなるはずである。 ④D2受容体拮抗薬の全身投与はHVSのパワーを増大させるがD1受容体拮抗薬は効果が無いことから、間接路ニューロンがHVSの変調に重要な役割を担っている可能性が示唆されている(Yang C et al 2013)。そこで、記録した細胞が直接路ニューロンなのか間接路ニューロンなのかを免疫組織化学的に同定する事を試み、両者にHVS発現の有無やパターンなどに相違があるか検討したい。 ⑤これらの検討結果から、活動電位しか検出することのできない細胞外記録では観察することのできなかった、閾値以下の膜電位の軌跡と脳波との関係が明らかにできると考えられる。
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