研究課題
痛みなどの無条件刺激 (US) と条件刺激 (CS) との連合学習である恐怖条件付けには、扁桃体外側核が責任領域として世界中で研究が進められてきた。しかしながら近年、それまで扁桃体の単なる出力系と捉えられてきた中心核が、外側中心核(CeL)外包中心核(CeC)および内側中心核(CeM)の亜核より構成され、抑制・脱抑制による統合処理を担うことが示された。さらに、痛み信号は橋にある腕傍核からCeCに直接入力することも知られ、CeCもCS-US連合の場と捉えられる。そこで、本研究ではCeCを新たな連合の座と捉え、情動学習における生理的役割を神経回路から行動制御レベルまで一貫して解明することを目的とする。具体的には、情動依存的学習後にCeCのシナプス可塑性が誘導されていることを見出した。また、このシナプス可塑性が連合依存的に誘導され、プレシナプスからの小胞放出確率の亢進を伴うことも見出している。今後、痛みを手がかりとした情動依存的記憶制御の神経回路機構を明らかにしてゆく。
2: おおむね順調に進展している
慢性痛成立後にCeCのシナプス増強が報告されているが、我々は恐怖記憶成立後にCeCの顕著なシナプス増強を見出した。このシナプス増強は連合学習依存的であり、さらに、扁桃体外側核・基底外側核を介した間接経路、および腕傍核からの直接経路どちらにもシナプス増強が見出された。このシナプス増強にはプレシナプスからの神経伝達物質放出確率の増大を伴うことが明らかとなった。さらに、このシナプス増強には痛みペプチドであるCGRPが関与することが示された。一方、個体レベルでの解析では、直接経路の起始核である腕傍核の抑制により、情動記憶の形成に障害が出ることも見出した。これらの結果は、従来着目されてきた視床・皮質を介した経路による恐怖記憶制御に加えて、新たに腕傍核からの直接経路が恐怖記憶に関与することを示すものである。
恐怖記憶制御におけるCeC可塑性の生理的意義を解明するにはその分子メメカニズム解明が急務である。そのため、今後は急性脳切片を用いて、間接経路と直接経路の可塑性の分子機構をシナプスレベルで明らかにする。
前年度に計画していたマウス腕傍核への薬剤・ウイルス投与実験系の確立が、侵襲性をなるべく低くする試みなどの予定よりも時間がかかった。このため、以降の実験予定が本年度にずれ込んだ。しかしながら、その間にAAVの選定やCreリコンビナーゼを発現するマウスラインの交配などは予定よりも早く進んだ。
次年度は本年度に確立した光電気生理学的手法により、急性脳切片を用いて、間接経路と直接経路の可塑性の分子機構をシナプスレベルで明らかにする。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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