研究課題/領域番号 |
25430016
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
堀 哲也 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (70396703)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | シナプス小胞 / 前シナプス / GABA / 抑制性シナプス / 小脳 / マウス |
研究概要 |
中枢神経系の抑制性シナプスにおいては、シナプス小胞は抑制性伝達物質GABAを開口放出した後、エンドサイトーシスによって回収され、開口部位へとリサイクリングされるが、その過程で、シナプス末端内のGABAを取り込んで、新たな開口放出に備える。小胞充填に必要な時間は小胞の再利用に必要な時間を規定し、小胞充填機構の修飾は、シナプス伝達効率を変化させる。本研究は、中枢神経系において主要な抑制性シナプス伝達を担うGABAのシナプス小胞への再充填時間の測定を第一の研究目的とし、充填修飾機構の解明を第二の研究目的とする。 平成25年度は、シナプス前終末内GABA濃度制御技術の確立を実施した。具体的には、げっ歯類(マウス)小脳籠細胞の細胞体と、プルキンエ細胞から同時ホールセル記録を行うことで、前末端内液を、GABAを含まないホールセルピペット内液で置換することにより小胞内のGABAを枯渇させ、次いで、前終末内GABA濃度を人工的に上昇させることによってシナプス小胞にGABAを再充填させる事に成功した。 次に、籠細胞細胞体に光分解GABAであるDPNI-Caged GABA(TOCRIS社)を導入し、抑制性シナプスにおけるシナプス小胞へのGABA充填速度の測定を実施した。具体的には、DPNI-GABAを細胞質内にて光分解し、GABAを遊離させて前終末内GABA濃度を急激に上昇させた後の抑制性シナプス応答の回復時定数を測定した。げっ歯類小脳シナプスにおける小胞GABA充填時定数は約90秒であった。興奮性シナプスにおける小胞へのグルタミン酸充填(約15秒)と比較し、遅いことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度研究計画の前半では、小胞へのGABA充填機構観察の前段階として、小胞内GABAの流出機構を明らかにする実験に成功した。実験当初、籠細胞とプルキンエ細胞の同時記録は困難を極めた。このため、パリ第五大学Alain Martyらと共同研究を実施し、籠細胞-プルキンエ細胞同時記録、ならびにGABAを含まない記録電極で籠細胞のホールセル記録を行い、GABA枯渇によるIPSC減衰の経時変化観測に成功した。 この成功をふまえ、平成25年度の後半では、シナプス前終末細胞質GABA濃度制御方法と、小胞へのGABA充填観測方法の確立を実施した。具体的には、前末端細胞内にcaged GABAを注入して、UV光パルスによってuncagingを行い、抑制性シナプス前末端における、シナプス小胞へのGABA充填速度の観測に成功した。 以上の実験結果より、交付申請書における研究の目的に記載された平成25年度研究計画 を順調に達成し、良好に進展していると自己評価するものである。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度位以降は、①小胞GABA充填 修飾機構の解明、また、②GABA充填機構観測の定量性精度および細胞内GABA濃度制御技術の向上、の2つを主要な研究目標に定め、研究を遂行する。まず修飾機構の解明として、研究計画(1)の実験を36℃で行う。 生理的条件下での小胞充填速度を明らかにする。また、上記の実験を生後7日、14日、21日のマウスを用いて行い、生後発達による小胞内GABA維持メカニズム、充填速度、充填修飾機構について、生後発達変化を定量的に検討する。 さらに、アンケージングにより細胞質に遊離される細胞質内GABA濃度を維持し、かつ定量性精度の確保する目的で、前終末パッチ電極内紫外線照射法の開発、および定量的アンケージング法の確立を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当研究は申請当初の研究計画をおおむね良好に達成し、順調に遂行されている。このため、次年度の研究助成金として次年度使用額を請求する。 本研究の実施にあたっては同志社大学生命医科学部神経生理学教室の電気生理実験装置、ならびに共通利用施設の2光子顕微鏡装置を使用する。 抑制性シナプス前細胞ならびに後細胞からの同時電気生理記録と、ケイジドGABA光分解には、興奮性シナプスにおけるケイジドグルタミン酸光分解実験(科学研究費 平成21年度~22年度 若手B)実施に利用した研究環境をそのまま利用して実施するため設備の購入は計画しない。一方、消耗品としてはケイジドGABAの購入、使用を計画し、ここに申請する。 また、本研究の発信にあたって、北米神経科学会での国際発表を計画している。また、研究結果はすみやかに査読のある国際雑誌に掲載する事で、国内はもとより、広く国際社会に発信する。このため、旅費の使用を計画している。
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