研究課題/領域番号 |
25430021
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
知見 聡美 生理学研究所, 統合生理研究系, 助教 (30396262)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 大脳基底核 / 視床 / 運動制御 / 神経活動記録 / マカクサル |
研究実績の概要 |
大脳皮質-大脳基底核ループがどのようなメカニズムによって運動を制御するのかを明らかにするため、覚醒下のサルにおいて、大脳基底核の出力部である淡蒼球内節から入力を受け大脳皮質運動野に投射する視床ニューロンから記録を行った。まず、淡蒼球内節に電気刺激を加えて応答を観察したところ、単発刺激は単相性の抑制、あるいは抑制とそれに続く弱い興奮という2相性の応答を惹起した。また、50-100 Hzの連続刺激を加えると、刺激期間中に強い興奮が生じる例が多く観察された。視床ニューロンの記録を行いながら、記録しているニューロンの近傍GABA受容体の拮抗薬を局所投与したところ、淡蒼球内節の刺激で観察された抑制と興奮の両方が消失したことから、抑制はGABAによるもの、それに続く興奮はリバウンドによるものと考えられる。また、リーチング運動課題遂行中のサルにおいて視床-大脳皮質投射ニューロンの活動様式を調べたところ、多くのニューロンが興奮、または興奮と抑制の両方を含む活動を示すことが分かった。現在、大脳基底核の運動制御機構としては、「脱抑制モデル」、すなわち、淡蒼球内節のニューロンは常時高頻度発射して視床ニューロンの活動を抑制しているが、直接路を介した入力によって一時的に活動が抑制されると視床が脱抑制によって興奮し、大脳皮質が興奮して運動を惹起するというモデルが広く認められている。しかしながら、本研究の結果により、淡蒼球内節から視床への情報伝達は、抑制性入力に続くリバウンド興奮によって行われている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、大脳皮質-大脳基底核ループがどのようなメカニズムによって運動を制御するのかを明らかにすることを目的としている。現在までに、1) 大脳基底核の出力部である淡蒼球内節の電気刺激実験、2) 運動課題遂行中のサルにおける視床-大脳皮質投射ニューロンの活動記録実験を行い、淡蒼球内節から視床への情報伝達は、現在広く認められている「脱抑制」ではなく、抑制性入力に続くリバウンド興奮によって行われている可能性を示唆する実験結果を得ており、目的達成に大きく近づいていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験により、淡蒼球内節から視床への情報伝達は、抑制性入力に続くリバウンド興奮によって行われている可能性が示唆された。これまで、運動課題遂行中のサルにおいて大脳皮質に投射する視床ニューロンの活動を記録し、その活動様式の解析を行ってきた。今後はさらに、薬剤の脳内局所投与によって淡蒼球内節から視床-大脳皮質投射ニューロンへの情報伝達をブロックする実験を行い、淡蒼球内節から伝達される抑制とリバウンド興奮が、運動課題の遂行においてどのような機能を果たすのかを明らかにする。 具体的には、以下の方法で行う。淡蒼球内節の上肢領域に、電気刺激用の双極電極と記録電極、薬物の局所投与を行うためのチューブが一体となった電極を刺入する。また、視床にはユニット記録用の電極を刺入して単一ニューロンの活動を記録、逆行性および順行性の応答を記録することによって入出力を同定する。自発発火と大脳皮質の刺激に対する応答様式を調べた後、課題遂行時における活動様式を筋電図と同時記録して解析し、さらに淡蒼球内節内にGABAA受容体作動薬であるムシモルを投与することによって淡蒼球内節の活動を抑えるか、GABAA受容体拮抗薬であるgabazineを投与することによって淡蒼球内節の活動を増大させた後、視床ニューロンの自発発火様式、大脳皮質の刺激に対する応答、運動課題遂行時における活動様式、運動パフォーマンスと筋電図を再び記録し、投与前との比較を行う。また、視床にユニット記録用の電極と薬物の局所投与を行うためのチューブが一体となった電極を刺入し、gabazineやリバウンド興奮をブロックする薬剤を局所投与したときの運動パフォーマンスの変化と筋電図の記録も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた日本光電のユニット記録用のアンプが製造中止となり、購入不可能となった。別メーカーのものを購入する必要があるが、現在、機種選定中である。また、投稿予定だった論文の投稿が遅れているため、予定していた英文校正料、論文掲載料の使用が、翌年に持ち越されることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
運動課題遂行中のサルにおいて複数のニューロンの同期活動について解析を行いたいため、ユニット記録用のアンプを購入する予定である。 また、投稿準備中の論文を、まもなく投稿する予定であるのため、英文校正料、論文掲載料の支払いを予定している。
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