研究課題/領域番号 |
25430026
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
遠藤 啓太 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (40425616)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 感覚情報処理 / 嗅覚 / キイロショウジョウバエ / mushroom body / キノコ体 / カルシウムイメージング / 知覚 / 神経表現 |
研究実績の概要 |
キイロショウジョウバエの嗅覚神経系では、匂い情報は、一次嗅覚中枢 antennal lobe (AL) において神経発火パターンとして表現された後、さらに高次の脳領域である lateral horn (LH) と mushroom body (MB) へ伝えられ、行動の決定に直接関与する形の脳内表現に変換される。本研究は、これら高次領域のうち、匂いの連合学習に関わることが知られている MB において、匂いの脳内表現をカルシウムイメージングを用いて包括的に解析することで、経験に依存した匂いの認知における情報処理機構の解明を目的とする。 昨年度までの研究によって、MB における匂い表現は AL と比べてより離散的で、匂いの種類や濃度に関わらず比較的均等であり、その結果、経験依存的な匂いの知覚と弁別が匂いの種類や濃度に関わらず一定の高い確度で保障されていることが示唆された。 本年度は、これらの結果を裏付けるため、カルシウムイメージングを4倍の空間解像度で繰り返し、より信頼度の高いデータを得た。 また、得られたデータを用いてクラス分類分析を行い、MB と AL での匂いの弁別能力を定量的に比較した。さらに、AL から MB への匂い表現の変換をコンピュータ上でシミュレーションすることで、情報処理のモデル化を行った。 これらの結果、MB では、個々の神経細胞が AL に表現された匂い情報の一部をランダムにサンプリングすることで、それぞれ異なる匂い応答性を獲得し、約2000個という細胞数とも相まって、全体としてより多様な匂い表現を生み出していることが裏付けられた。さらに、その多様な匂い表現によって、異なる匂いはより異なる匂いとして表現される結果、MB はより高い確度で匂いの知覚と弁別を行うことができる一方、 似た匂いの表現は相対的に近づくことで、似た匂い同士のカテゴリ化にも寄与しうることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MB における匂い情報表現のイメージングによる記録はほぼ終了し、また、このデータを用いてクラス分類分析やシミュレーション等の解析を行うこともできたことから、イメージングとそのデータ解析に関しては、昨年度の遅れをほぼ取り戻したと言える。しかしながら、イメージングのデータを元に構築された MB の情報処理モデルを、実際の個体の行動と対応させて検証するための行動解析実験がまだ進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、イメージングによって得られた MB の匂い表現から類推される匂いの弁別能力を実際の個体の匂い弁別能力と対応付けるために、行動実験を行う予定であったが、イメージングデータを用いたクラス分類分析、および、シミュレーションによって、AL から MB への匂いの情報処理のモデル化ができたので、まずは、ここまでの結果をまとめて論文として発表することを優先する。 さらに、論文作成と平行して、行動解析実験の準備を進め、本年度の後半に行動解析実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の未使用額が生じた理由は、予定していた行動解析実験ではなく、主にコンピュータを用いたデータ解析を中心に研究を進めたため、備品等の購入を見合わせたのと、前年度からの研究の遅れを取り戻すことを優先し、学会への出席を見合わせた結果、旅費を使わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、先送りにしてきた行動解析実験を行うため、昨年度から繰り越した分を使って、実験に必要な備品・消耗品の購入を行う。また、本年度は、昨年度までの研究成果を発表するため学会にも既に参加申し込み済みであり、それに伴い、学会参加費、旅費等の支出も生じる。
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