研究課題/領域番号 |
25430029
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
上野 耕平 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム分野, 主席研究員 (40332556)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / プロテオーム解析 / 神経可塑性 |
研究概要 |
本研究はショウジョウバエの短期記憶保持の分子基盤を明らかにすることを目的としている。短期記憶形成において、cAMP/PKA分子経路が非常に重要な働きをすることは、行動遺伝学的に明らかにされている。そこで、25年度では短期記憶様神経可塑性を誘導した単離培養脳からタンパクを抽出し、誘導前後でリン酸化レベルの変化したタンパクをプロテオーム解析により解析した。その結果、予備実験と同様にATP産生に関与する分子や、細胞骨格に関与する分子が同定された。そこで、ミトコンドリアの内膜pHを検出するプローブおよび細胞骨格タンパクに蛍光を標識したキメラ分子を発現するハエを作製した。このハエの単離脳に対し、可塑的変化を誘導した。しかし、顕著な変化は観察されなかった。 一方、これらの分子をコードする遺伝子発現を、記憶中枢でノックダウンする遺伝子組換え体を作製し、これらの短期記憶を計測した。その結果、いくつかの遺伝子において顕著な記憶障害が観察された。 以上の結果から、確かにATP産生や細胞骨格の挙動が短期記憶には重要であると思われるが、単離脳で解析する上ではいくつかの問題を解決しなくてはならないと考えている。 具体的には、現在は記憶中枢神経群を全て観察しているが、より詳細に1ないしは数本の神経繊維に注目すべきであると考えている。ショウジョウバエは遺伝学的に1本の神経細胞だけに蛍光プローブを発現させる系があるため、26年度はこれを利用して解析する。 一方、ノックダウンにおける実験は、より詳細にノックダウン時期をコントロールした遺伝子組換え体を作製し、真に短期記憶に重要なのか否かを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度のプロテオーム解析は、予備実験とは異なる対照群に対して行ったにも関わらず、多くの分子が前回および今回にも同様に同定された。このことは、本研究の解析方法が妥当であることを示している。さらには、これらの分子を記憶中枢特異的にノックダウンすると、顕著な短期記憶能力の低下が見出された。この結果は、プロテオーム解析で選択された分子に注目して、今後の研究を遂行することが有効であることを示している。一方、イメージング解析によりこれらの候補分子の挙動が、神経の可塑的変化誘導に伴い観察することができなかった。しかし、近年のほ乳類の研究から、神経活動そのものではない(すなわち電流変化やコンダクタンス変化ではない)神経の可塑的変化を可視化することは簡単ではなく、2光子顕微鏡とケージド化合物を組み合わせるなど、特殊な実験系が必要である。本研究においても、より精密な実験を行う必要があることが改めて確認されたと考えている。これに対する対応は、以下の今後の研究の推進方策で述べる。 以上の理由から、本研究の進捗はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
プロテオーム解析で候補に挙げられた分子のノックダウン実験は全ては終わっておらず、これを継続して行う。また、既に記憶障害が見出された遺伝子に関しては、時期特異的にノックダウンを行い、神経発生や突起進展などへの影響を除外した実験を行う。一方、ノックダウンしても記憶障害が発生しなかった群に関しては、過剰発現体を作製しその影響を解析する予定である。 記憶に関係することが明らかになった分子に関しては、さらに以下の解析を行う。すなわち、イメージング解析によりハエ記憶中枢の神経可塑性に影響を及ぼすか否かを解析する。さらに、単離培養脳において可塑的変化を誘導した場合、これらの分子がcAMP/PKA経路によってリン酸化されているか否かの検討を行う。抗体を用いて、標的分子を精製しphos-tag gelによる泳動度解析、さらには質量分析機器を用いてどのアミノ酸部位におけるリン酸化状態が変化するのかを明らかにすることを目指す。 神経におけるミトコンドリアおよび細胞骨格の挙動を解析するために、記憶中枢の1細胞イメージング解析を準備中であり、これが達成されればミトコンドリア機能や細胞骨格分子の挙動を制御する薬剤を用いて、神経の可塑的変化への影響を可視化することが可能となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度において、海外企業(Genetics Service Inc.)へ遺伝子組換え体の作製を依頼した。しかし、当企業が予定通り作出することが困難となり、納品が26年度にずれ込むこととなった。そのための支払い額を次年度使用額として計上した。 上記理由により次年度使用額の内、昨年度からの繰り越し分に関しては組み換え体作製の代金として使用する。残額に関しては、当初の研究計画通りに使用する予定である。
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