研究課題/領域番号 |
25430032
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
杉原 泉 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (60187656)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マウス / 小脳 / 縦縞状区画構造 / プロトカドヘリン10 / 軸索投射 / 形成過程 / プルキンエ細胞 / アルドラーゼC |
研究実績の概要 |
小脳が多彩な機能を持つために重要な小脳の区画構造が、どのように形成されるのかを明らかにするため、われわれのこれまでの区画構造の形成過程の研究をさらに発展させ、胎生期の区画が成熟期の区画にいかに再編成されるか、プルキンエ細胞が生まれてからどのようにして区画ごとの集団に分かれるのか、そして、胎生期の区画がどのように部位対応的軸索投射の形成に寄与するかという重要な問題を、主として遺伝子改変マウスを利用した形態学的手法によって解明していくことが本研究の目的である。既に入手済みのOL-KOノックインマウスに関し、26年度は、胎児期小脳のプルキンエ細胞集団の形成、変形課程の精密な解析を行った。このマウスでは、プロトカドヘリン10分子を発現する特定のプルキンエ細胞集団が、レポータータンパクベータガラクトシダーゼを発現することで、固定標本における発色反応で青色に発色するので容易に追跡することができる。まず、小脳全体の標本で見たところ、E13.5において、約4個の集団が認識されるようで、それらが、日齢が経過すると共に次第に、位置、場所、形を変えていくことが明らかとなった。この課程を精密に観察するために、連続切片から、集団の形態を三次元的に再構築を、まずE15.5で行った。 また、平行して、小脳の区画構造の機能に関する多方面からの解析を行い、成果を発表した。マウスの成獣における区画構造の標準であるアルドラーゼC陽性・陰性の縞構造の詳細を、ノックインマウスを用いて明らかにした。マウス成獣プルキンエ細胞の活動性に関して、アルドラーゼC陽性区画と陰性区画のプルキンエ細胞で違いがあることを見出した。小脳の縦縞区画に関係する新たな小脳核入力線維の存在を明らかにした。比較解剖学的な観点から、トリの小脳における縦縞区画構造を、アルドラーゼC発現パタンと下オリーブ核からの軸索投射パタンに基づいて解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心的部分(OK-KOマウスでの解析)、は、研究代表者と、その指導を受けている1名の大学院生により行われた。技術的な困難があったが、それを乗り越える努力・工夫がなされたことが、研究が比較的順調に進んでいる理由と考えている。本研究での主要な実験動物として位置づけているOL-KO:C57BL/6nマウスは、元々C57BL/6nマウスの系統をバックグラウンドとしていたが、実際に繁殖を初めて見ると、オス・メスとも交配しにくく、さらにメスは子育てをしないという、困難を伴っていた。そこで、B6C3F1マウスをバックグラウンドとしてOK-KO系統を維持するようにしたところ、オスが比較的順調に交配するようになり、胎仔や新生仔の標本が良く採取できるようになった。未熟な胎児の脳からの連続切片作製という技術的に困難な作業を行うことが必要であったが、胎児の脳の切片は非常に脆弱で、浮遊切片の状態で、ベータガラクトシダーゼの発色反応を行うと破損してしまう場合が多かった。それに対して、われわれは、切片をミクロトームで切った後、まず、直接スライドグラスに貼り付け、そのあとで、ベータガラクトシダーゼの発色反応をおこなうという方法に切り替えることとした。その結果、安定して、連続切片におけるベータガラクトシダーゼの発色反応が行えるようになった。 また、平行して行っている、プルキンエ細胞集団に関する、関連した解析が、共同研究者との共同研究や、研究室内の他の大学院生の研究によって進展したことが、理由としてあげられる。Aldoc-Venusマウスなど従来から維持しているマウスを有効利用できたこと、本研究の支援による蛍光撮影装置の導入により、蛍光標識写真の撮影がスムーズになったこと、平成26年度に新たな大学院生の参加があったことなども進捗の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の平成27年度は、本研究の中心的課題として、OL-KOマウスを用いた小脳区画構造の形成過程の解析を完成させる。すなわち、E17.5からE16.5、E15.5、E14.5、E13.5、PC集団の作る区画が形成され発達していく様子を詳細に解析する。これまでにほぼ完成した、各日齢での小脳標本の連続切片作製、区画特異的に発現しているマーカー分子の写真撮影、パソコン上での区画の三次元的再構築という手法を用いる。初めにどのようにして小脳皮質の区画構造ができはじめ、それがどのように分化していき、数十以上と考えられる胎生期後期の区画にまで発達していくのかを、形態学的に追跡する。特に興味があるのは、小脳の前と後で、機能的な鏡像関係の形成メカニズムである。このOL-KOマウスの解析に直接携わる学生数を増やし、大学院生をもう1名加えて、合計2名にし、また、研究室配属の医学部学生を1名加え、研究代表者と合わせて4名で担当するようにする。担当を分け、分担して解析するようにする。P14および成獣での解析には、アルドラーゼCという成獣時での標準的な縦縞区画マーカーの発現パタンとの比較が主要なテーマになる。この比較において、1NM13という別の縦縞区画の標識されているマウスも用いて、よりシステマチックな比較を試みる。胎児期、新生仔期での解析は、Pcdh10、pcp2、FoxP2、RORalpha、EphA4といった、これまでにE17.5で小脳縦縞区画のマーカー分子として有用なことが確認された分子に関しての免疫染色も行い、より、系統的な解析を試みる。 平行して行う胎生期の小脳区画構造の入出力神経投射の形成に対する寄与の解析のためには、解析のしやすい成獣マウスを用いる。従来からわれわれの得意とするトレーサー注入による方法を用い、アルドラーゼC発現の縞が蛍光で可視化されたAldoc-Venusマウスを用いて、効率化を図る。
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