海馬歯状回における成体神経新生においては、幹細胞ニッチェを構成する多細胞間の相互作用により細胞死と細胞新生がバランスされて調整されており、その機構の破綻は老化やストレス侵襲における神経新生の変化に関わると考えられる。本研究では、この細胞間コミュニケーションに関わる分子として多彩な機能を有するHMGB famlyに着目し、神経新生におけるその役割の解明ならびにその発現・機能調節による幹細胞能制御を試みるとともに、成体神経の活性及びその異常の指標となるマーカー分子としての可能性をヒトへの応用を目指し探索することを目的とする。 平成27年度までに、HMGB familyのうちHMGB1はユビキタスな発現を示す一方で、HMGB2の発現が海馬神経新生の活性に相関していることを見いだした。次いで、機能喪失・過剰発現系を用いた検討によりHMGB2は神経幹細胞のアポトーシスとニューロン分化の制御に関わっており、複数の分子との相互作用が重要であることが示唆されること等を明らかとした。また、HMGB2と相反する発現を示す特徴的な転写因子を同定し、この発現が海馬ニューロンの加齢に相関することを見いだした。 平成28年度には、平成27年度までに得られたHMGB2による神経新生制御の分子メカニズムのさらなる検討のため、相互作用を行う分子群の脳内発現パターンの解析を進めた。また同定したHMGB2と逆相関の発現を示す転写因子の発現制御についても検討を行った。
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