研究課題/領域番号 |
25430043
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
堀内 城司 東洋大学, 理工学部, 教授 (40181523)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ストレス / 血圧 / 心拍数 / 視床下部 / 中脳中心灰白質 / オレキシン / c-Fos |
研究実績の概要 |
今年度は社会的ストレスとその脳内機構に関して、5つの新知見が得られた。今回、住環境ストレスとして、自分のホームケージから攻撃性が高い他系統のラットが居住していたケージへ移動させるホームケージ交換ストレスを行った。このストレスは引越しに伴う住環境変化を模したもので、このケージ交換は血圧と心拍数の増加ならびに、視床下部(背内側核:DMH、脳弓周囲:PeF)や中脳中心灰白質(PAG)での神経細胞の興奮性を表すc-Fos陽性ニューロンの発現の増加傾向を示したが、いずれもストレスを加えないコントロール群と比して差が認められなかった。ヒトにおいて住環境の変化は大きなストレスとなり得るが、このストレスは毎日の累積的な負荷によるものであると考えられ、今回我々が用いた一過性の短時間のストレスでは、循環と組織のデータから、住環境ストレスを正確にもしていない可能性が示唆されたことは意義深い。 これに対して、社会的敗北ストレスにおいては、攻撃性の高い居住者Long Evansラットによる優位性確立後、敗北行動を提示した侵入者ラットを金網で直接的な身体的接触をできなくした後でも、血圧、心拍数共に明らかに増加し、また中脳中心灰白質、視床下部領域の神経細胞の興奮性も大きく増加した。特に昇圧・頻脈に関与しているPAG背外側部とDMHとPeFにおいて著名な神経細胞興奮性の増加が認められた。従って、これら部位が他の生理的ストレス反応と同様に社会的敗北ストレスがもたらす生体反応の重要な部位であることが明らかになった。加えて、ストレス関連ペプチドであるオレキシンを含有する視床下部の興奮性が特異的に上昇していること、ストレス性の頻脈反応に視床下部DMHのセロトニン受容体が関与していることが示され、この二つの物質が社会的敗北ストレス反応発現の鍵を握っている可能性が新たに明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は実験動物使用施設の整備遅れによって動物実験申請書認可とスタッフ教育に時間を要したため、計画の変更(昨年度と今年度の計画の交換)や実験計画そのものに遅れが生じたが、今年度はスタッフ一同の努力により、昨年度の遅れを大幅に取り戻し、昨年度の目的達成も含め、概ね今年度の目的を達成できたと考えている。1年前倒しで行った住環境ストレスは昨年度に引き続き、今年度も継続した。その結果、住環境ストレスの負荷強度が小さく、自律神経反応や中枢の反応が十分に観察できないことが判明したが、今後の実験展開や住環境ストレスの生体に及ぼす影響に関しては一定の見解が得られた。 一方、前年度から今年度に変更した社会的敗北ストレスでは、実績の概要にも述べたように仮説を裏付けるデータを得ることができ、平成27年3月の第92回日本生理学会大会で発表を行い、また9月の国際自律神経学会に演題登録を行ったので、今年度の目的をほぼ達成できたと考えている。加えて、次年度の実験のための重要な情報となる神経ペプチド・オレキシンの社会的敗北ストレスによる自律神経反応への関与の可能性とストレス反応への視床下部セロトニン受容体の役割が今年度の実験により明らかになった。いずれも生理学会での発表と秋の国際学会での演題登録を行った。 今年度、目的達成が遅れているのは、神経トレーサーによる視床下部と中脳中心灰白質間の神経投射の確認実験である。神経トレーサーとc-Fosの二重染色の条件設定に時間を要したため、現在までに3例の実験が行われ、解析を進めるとともに、来年度の追加実験を予定している。 以上のように、視床下部-中脳の神経ネットワークの解明の遅れはあるが、昨年度の遅れはほぼ取り返し、来年度の目的に関する情報や実験データがすでに得られているため、表記の目的達成度区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度の実験結果をもとに、予定通り視床下部と中脳の神経伝達物質の解明と社会的ストレスによって引き起こされる自律神経反応の中枢内ネットワークを視床下部と中脳を中心に総括できるように計画を進める予定である。また、今年度達成できなかった神経トレーサーによる視床下部-中脳神経ネットワークの解剖学的なアプローチを引き続き行う予定である。現在、社会的敗北ストレスに関する実験データが統計処理可能な最低例数であるので、今年度も数例の追加実験を行い、データの信頼度をあげる予定である。 さらに、住環境ストレスの検証に用いたホームケージ交換による負荷強度が十分ではなかったため、住環境ストレスを検証するストレスをストレス強度が高いものに変更することも検討している。昨年度も予定したがホームケージ交換ストレス実験と社会的敗北ストレス実験に時間を奪われ、ケージ交換に加え、キツネ尿等の使用を行う実験ができなかったので、今後検証したい。また、今年度はこれらと同時に、別の神経興奮性マーカーの使用も検証したいと考えている。汎用され、我々も用いている神経興奮性マーカーc-Fosは、染色可能な濃度に達するために一定以上の刺激強度と時間が必要であるため、短い刺激時間でも検出可能な神経興奮性マーカー(MPKC/ARC2)の使用を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は昨年度の遅れをカバーすべく、昨年度の計画であった社会的敗北ストレス実験プロジェクトと今年度計画の住環境ストレス実験プロジェクト同時進行で行った。当初目的はかなり達成されたが、同時進行を行ったため意識下の循環データ取得のための重要ディバイスであるテレメトリープローブの数的不足と消耗が激しく、また神経トレーサー実験計画が少々遅れているため、使用実績に当初計画との齟齬が生じた。また、初年度に生じた計画遅れから、今年度に国際学会での発表を計画していたが、来年度に延期したい。最後に、実験代表者の学内他業務のため、実験の遂行に不都合が生じたため、それをカバーするため、人件費の増額を行った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、本支援事業の最終年度となるため、研究成果の公開のための、国際学会での発表に関わる費用と国際学術雑誌への投稿費用に使用する。また、消耗が激しい循環データ記録用テレメトリープローブの充電とカテ先交換の費用として、高額消耗品経費を計上する予定である。また、データ量が膨大となり、その処理のために実験補助者の雇用増を予定している。
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