平成27年度は、前年度までに条件設定を終わらせたゴルジ染色によって、SVZ直近ニューロンの形態学的な解析を行った。コントロールマウスと、重積てんかん(Status Epilepticus; SE)発作を誘発させたマウス(SEマウス)の間でのニューロン形態の変化(樹状突起の分岐状態、棘突起の数や形態)を解析した。前年度までの印象として、棘突起の数などが、SEマウスで減少している印象であったが、個体数を増やして解析したところ、有意差が検出できなかった。大脳皮質からSVZに投射する投射経路の探索として、内側前頭前野に順行性トレーサーを注入した結果、過去の文献通り側脳室直近の線条体までは投射することが分かったが、コントロールマウスでもSEマウスでもSVZ内にまで侵入する現象は検出されなかった。 研究期間を通しておこなった解析では、上記の通り、SEマウスにおける大きな神経回路の改変、およびSVZ直近ニューロンの形態変化を検出することはできなかった。この結果は予想外であったが、本研究を通じて新たな発見があった。近年、SVZに存在する神経前駆細胞の増殖調節には、周囲のニューロンから放出される各種神経伝達物質が重要であることが、海外研究グループによって明らかにされている。そこで、本研究で用いたSEマウスにおいて、ある神経伝達物質の合成に関与する酵素の活性が、ごく少数のSVZ直近ニューロンにおいて有為に低下していることを突き止めた。このような変化を示すニューロンの数は非常に少ないため、ゴルジ染色ではこれらのニューロンの形態変化をとらえることができなかったと考えられる。本研究を通じて確立した、単一細胞内への色素注入技術により、これらのニューロンの形態学的解析を行うことが重要である。
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