研究課題/領域番号 |
25430046
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 |
研究代表者 |
田畑 秀典 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 神経制御学部, 室長 (80301761)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 神経細胞移動 / 神経回路 / 神経発生 / 大脳皮質 |
研究概要 |
哺乳類大脳皮質神経細胞は脳室帯(VZ)あるいは脳室下帯(SVZ)で誕生し、脳表面側へと移動する。我々は、皮質形成後期過程において、VZ で最終分裂を終えた皮質神経細胞は、多極性細胞の形態をとってSVZ下部に約24時間留まり、その後、双極性細胞へと変化して皮質板(CP)へと侵入することを観察した。多極性細胞が留まるSVZ下部を多極性細胞蓄積帯(MAZ)と呼ぶ。一方、VZ離脱後もさらに分裂する集団はMAZに特異的に留まることなく 中間帯(IZ)に広く分布することを観察し報告した。前者の集団をSEP (slowly exiting population)、後者をREP (rapidly exiting population)と呼ぶ。SEPはMAZから移動を再開する時期に軸索を内側へと伸ばし、この場所に脳梁の線維を作る。このことから、SEPとREP はそれぞれ異なる線維連絡を持つ神経細胞へと分化する可能性が考えられた。本研究課題では、SEPとREPを区別してラベルし、その線維連絡を特に脳梁線維と連合線維との違いに注目して観察すること、さらにはSEP が脳梁線維を形成する分子機構を解明し、これがREP でも機能しているのかを明らかにすることを目的として研究を開始した。EGFPをCre依存的に発現するベクター、nestinプロモーター下でCreを発現するベクター、及び恒常的にRFPを発現するベクター(CAGプロモーター)を混合して子宮内電気穿孔法により胎生15日目マウス胎仔に導入して、2日後に観察するとSEPは赤の蛍光、REPは赤と緑の蛍光で標識されることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前述したSEPとREPの標識を行った個体を生後20日まで生存させ解析すると、赤の蛍光を単独で持つものが著しく減少しており、nestinプロモーターからの微量なCreの発現が生後にEGFPを新たに誘導してしまった可能性が示唆された。このため、神経連絡の違いを観察することが現時点では困難である。今後さらなる厳密な標識方法を検討する必要がある。またSEPの交連性軸索が形成される分子機構に関しては、細胞接着因子であるTag1の重要性が他の研究室より報告され、これを勘案した研究方針の練り直しが必要となった。
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今後の研究の推進方策 |
SEPとREPを区別して標識する方法をさらに検討する。まずはnestin-Creプラスミドの添加量を少なくして、非特異的な組換えが起きない条件を探す。この場合は組換えていないRFP陽性細胞にRFPが混ざることが考えられるが、組換えた側(GFP)のみを解析の対象とする。また、遺伝子導入後2日目の段階ではSEP とREP はきちんと区別できているので、この時期の軸索伸展開始時点での方向性に違いがないかを検討する。さらにREPとSEP の標識法の精度向上に向け、VZに特異的に発現する分子のプロモーターに着目する。RFPはVZを出た後もnestinプロモーターが活性化しており、そのためnestin-Creで組換えが起きる。しかし、VZでさらに分裂する放射状グリアでも組換えが起きるため、そこから生じるSEPもGFPが発現することになる。これを防ぐため、VZ 特異的プロモーター下にFlp recombinaseを発現させ、Cre依存的発現カセットを不活性化する。これによりCreもFlpも発現する前にVZを去るSEPは恒常性発現ベクターでRFPにより標識され、nestinは発現するがVZからは離脱したRPEはCre依存的にGFPを発現し、その後VZから移動してくる集団はFlpでGFPの発現を消失させることができる。VZ特異的プロモーターとしてはProminin1を第一候補とする。この分子はマウス及びヒト胎児においてVZでは発現するがSVZでは発現しないことが知られている。Tag1がSEPの軸索伸展に関わることが報告されたので、REPに関してはこれとは違った系が使われているのかをREPにおけるTag1の発現やKD による影響を観察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
REPの標識方法に関して、当初予定していた方法では目的を果たせないことが初年度の研究から明らかとなった。当初研究予定ではこの解析結果をもとに分子機構の探索を行う予定であったが、標識方法の改善が優先される課題となった。また、前述の通り、SEPの軸索伸展に関する論文が他の研究室から発表されたため、分子機構の探索には幾つかの方針転換が必要となり、その準備期間が必要となった。これらのことから、多くの資金が必要とされる分子機構の解明は次年度に行う方針となり、そのための資金を次年度に繰り越すこととなった。 遺伝子導入後の早い時期での軸索伸展過程に注目した詳しい解析を5月下旬までの予定でまとめる。またこれと並行してprominin1遺伝子を含むBACクローンを入手し、電気穿孔法によるプロモーター解析を行う。この解析には多くの妊娠マウスと遺伝子組換え用キットが必要となる。この作業は7月を目処に完了する予定である。これらの材料をもとに、REPとSEP を精度よく区別して標識し、成獣における軸索走行を観察する。また、SEPとREPの軸索伸展に関してTag1に注目した解析を行い、REPにもTag1が必要なのか、別の接着因子を必要とするのかを解析する。これを実行するため、Tag1抗体やその他の細胞接着因子に対する抗体を取り揃える。また、ノックダウンベクターやレスキューベクターを導入するための妊娠マウス、またプラスミド精製キットを多く使う。これらの解析に約1年間を要すると見込まれる。
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