研究課題
基盤研究(C)
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は骨格筋でのdystrophin欠損による筋力低下を特徴とする進行性遺伝疾患である。DMDに対する遺伝子治療は、全ての筋細胞へdystrophin遺伝子導入が難しいことが障壁となっている。細胞外マトリックス分子であるbiglycanは、dystrophinの機能を代償し得るutrophinの発現を誘導することが知られている。本研究ではDMDモデルマウスであるmdxマウスにadeno associated virus (AAV)を介してbiglycan遺伝子(BGN)を導入し、mdxマウスの運動症状の回復、筋組織での遺伝子発現、組織学的検査を行ない、治療効果を検証した。rAAV8-BGNを尾静脈より全身投与したmdxマウスは、注入後2週より運動機能が上昇し、ロタロッドテストで良好な成績を示した。mdxマウスは成長過程で筋細胞の破壊より再生が活発であるため、ある程度運動機能が正常に近いが、横隔膜の筋肉は早い段階から筋の変性や繊維化が進む。mdxマウスはutorophinの発現が遅れる生後6週齢までと筋萎縮の始まる16週齢以降において、骨格筋組織では筋細胞の大きさにばらつきがあり、中心核が多く見られ、筋細胞の再生能が落ちることにより筋萎縮が促進する。現段階では治療マウスの経過観察中であるため骨格筋標本は作製していないが、運動試験の結果では16週齢においても運動能が良好である為、治療効果の持続が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
筋ジストロフィーモデルマウスmdxマウスを用いて、biglycan補充による治療効果の検討を行った。biglycanはAAVを介して全身の筋肉に導入する。今年度はrAAV8-BGNの大量作製と精製を行い、mdx mouseに注入した。AAVは安全性が高いことから、近年遺伝子治療に用いられているが、大量のウィルスを作製、精製には、方法が複雑かつ手順が多いため難しい。また、同じ力価のrAAV8-BGNを用いた実験を行うには、一度に大量のAAVを得る必要がある。BGN遺伝子がAAV作製の障害になるとは考えにくいが、rAAV8-BGNは従来の方法では少量のウィルスしか精製できなかった。プラスミドの精製度合いや、HEK細胞へのプラスミドのtransfection、塩化セシウムによる濃度分離、高イオン膜ムスタング分離といった各段階において、どの程度ウィルスが得られ、ロスしているかを細かく調べ、トラブルシューティングに多くの時間を割いた。今回、最初のトライアルであるため、1匹のマウスに用いるAAV量の目標を1x10^12 vgと高く設定し、数匹のmdxマウスに注入してその治療効果を観察した。今後、安定して大量にAAV-BGNを作製する方法を見いだし、有意な効果を実証するに十分な匹数で治療効果を検証する。
大量にrAAV-BGNを安定して作製する方法を見いだし、十分な匹数のmdxマウスに導入して治療効果を検証する。既にrAAV-BGN (1x10^12 vg)を尾静脈から注入した数匹のmdx mouseについては、16週以降の観察を行う。運動テストを継続すると共に、22週で骨格筋中のutrophin とジストロフィン分子の発現量をRNAレベルとタンパクレベルで調査する。また骨格筋組織切片においては、ヘマトキシリン・エオジン染色により筋細胞中の中心核数を解析し、筋組織の繊維化の程度を評価する。さらに、biglycan, utrophin, dystrobrevin 抗体を用いた免疫染色を行い、イメージ解析によりジストロフィン構成タンパクの発現量を調査する。また、コントロール群、治療マウス群の個体数を増やし、統計的に有意となる有効性を目指す。
産・育児休暇取得のため、研究実施期間の延長を申し入れた。そのため、今年度予算を全て使用せず、未使用額が生じた。実験を遂行するに必要な、備品、試薬、消耗品、ディスポプラスティク用品、動物飼育用品を購入する予定である。
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