研究課題/領域番号 |
25430049
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 美佳子 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60444402)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | デュシャンヌ型筋ジストロ フィー / AAV / biglycan |
研究実績の概要 |
デュシャンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、骨格筋でのdystrophin欠損による筋力低下を特徴とする進行性の遺伝性疾患である。本疾患はX染色体劣性遺伝であるが、突然変異率も高く、男児の3300人に1人の罹患率である。DMDに対する根本的な治療法はなく、進行を遅らせるための様々な取り組みがされている。 DMDにおける遺伝子治療は、モデル動物においてmini dystrophinやmicrodystrophinの導入が報告されているが、全ての筋細胞への遺伝子導入が困難なため、障壁となっている。本研究では、細胞外マトリックス分子であるbiglycanをadeno assiciated virus(AAV)を介してDMDモデルマウスmdxに遺伝子導入することを検討する。biglycanはdystrophinの機能を代償し得るutrophinの発現を誘導する ことが知られている。AAV-biglycanを導入したmdxマウスにおいて、運動症状の改復、筋組織での病理像の改善、遺伝子発現の変化を調べて、その治療効果を検証した。 AAV-biglycanを尾静脈より全身投与したmdxマウスは握力テストとロタロッドテストで運動症状が改善していた。mdxの骨格筋組織では、筋組織の大小不同や、中心核、細胞浸潤による炎症がみられるが、AAV治療マウスにおいて、CK値、筋細胞面積、中心核の割合が改善していた。AAVを介したBiglycanの導入により、治療マウスの筋組織中のBiglycanタンパク量が増加していた。筋組織における免疫染色により筋細胞中のutrophinの発現量は増加し、ジストログリカン複合体構成分子の発現量についても増加した。今後、副作用の観点から、他の組織・臓器での異所性発現についても解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度-27年度の計画にある、rAAV-BGN注入mdxマウスの運動能評価とmRNA発現量と組織学的解析を終了した。rAAV8-BGNを4週齢のmdxマウスの尾静脈に注入し、全身の骨格筋細胞での発現を行った。投与量は、rAAV8-BGN (1x12乗vg)を用いた場合に、有意な運動能力の向上が見られた。そこで、10匹のmdxマウスにrAAV-BGNの全身投与を行い、握力試験、回転ホイールによる自発運動テスト、ロタロッドテストの成績から運動能力の回復を評価した。治療マウスではBiglycanのタンパク発現が上昇していた。また、骨格筋中のutrophinとDAPC分子の発現量をmRNAレベルで調査した。組織学的な解析においても、病理像が改善されていた。さらに、骨格筋組織切片においては、病理像とbiglycan, utrophin, dystrobrevi, syntrophin, sarcoglycan抗体を用いた免疫染色を行い、イメージ解析によりシグナル強度を定量し、治療マウスで上昇が認められた。これは、遺伝子導入したbiglycanによりジストロフィン複合タンパクの遺伝子発現誘導がされたことを裏付けている。
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今後の研究の推進方策 |
1.異所性発現と安全性の調査 AAVはほとんどが染色体に取り込まれないため安全性が高いとされているが、異所性感染による肝機能障害、細胞障害など、安全性の評価をする。 2. 筋組織特異的プロモーターでの治療効果と安全性の確認 全身で強発現するCMVプロモーターに代えて、筋組織特異的発現をするプロモーターhuman skeletal actin gene (HAS)を挿入したコンストラクトを構築し、rAAV-HAS-BGNを作製する。 このベクターを用いて、mdxマウスに全身投与を行い、治療マウスの運動試験、組織での発現量の調査を行い、CMVプロモーターの場合と治療効果を比較する。また、異所性発現を検証するため、各臓器や組織においてbiglycanの発現の変化をmRNAもしくはタンパクレベルで調査し、副作用が軽減し安全で有効性の高いベクターを開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年8月、本課題内容の論文の査読が行われ、解析に用いた筋組織の変更、表現型の解析追加、免疫染色におけるシグナル定量、タンパク定量等の追加実験が求められた。当初の予想に反し、モデルマウスを作製する最初の段階からやり直しが生じ、実験をさらに追加することが必要になった。そのため、平成28年度に研究がずれ込んだため、研究に用いる物品、学会参加費等が必要になった。
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次年度使用額の使用計画 |
実験に必要な物品は、試薬、実験器具、ディスポ製品、消耗品、動物購入費、動物飼育費等である。 また、学会・研究会参加のための旅費が必要になる。
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