研究課題/領域番号 |
25430054
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
佐藤 準一 明治薬科大学, 薬学部, 教授 (30274591)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | C9orf72 / ALS / FTD / 標的遺伝子 / 結合タンパク質 |
研究概要 |
【目的・方法】前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia; FTD)は中高年期に前頭葉と側頭葉の神経細胞変性と脳萎縮を来たし、認知障害・人格変化・行動異常を呈する難病である。一方、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis; ALS)は中高年期に運動ニューロンが選択的に変性脱落し、骨格筋萎縮・呼吸障害が急速に進行する難病である。しばしば両者は合併する。近年FTD/ALSに共通する遺伝子変異としてC9orf72第1イントロン上のGGGGCC リピート異常伸長が同定された。欧米では遺伝性ALS責任遺伝子としてC9FTD/ALS変異の頻度が最も高く、球麻痺・精神症状を呈して生存期間が短い。現在までFTD/ALS発症機構におけるC9の病理学的役割(loss or gain of function)は解明されていない。本研究ではC9の生理学的機能(発現分布・発現制御機構・結合タンパク質・標的遺伝子)を解明するため、マウス運動ニューロン細胞株NSC34にFlagC9, FlagGFP, siRNAC9, scramble(scr)RNAC9を導入し、安定細胞株を樹立した。【結果】(1)FlagC9, FlagGFP細胞を用いて、抗Flag抗体で免疫沈降を行ったが、両者で結合タンパクに差異は見られなかった。(2)siRNAC9, scrRNAC9細胞からRNAを抽出し、Mouse 1.0 ST arrayで発現プロフィールを比較した。siRNAC9細胞で神経突起伸長制御因子Fez1の発現低下を認め、リアルタイムPCRで確認した。(3)ヒト神経芽細胞腫SK-N-SHにMG-132を投与するとC9の発現が顕著に上昇した。【結論】マウス運動ニューロンではC9と恒常的に結合するタンパクは少ないと考えられた。C9は神経突起伸長に関与し、ユビキチンプロテアソーム系の制御タンパクとして働いている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis; ALS)と前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia; FTD)は、有効な治療法がない難病である。2011年にALSとFTDに共通するC9orf72(以下C9と省略)の遺伝子変異が同定され、変性神経細胞における細胞質封入体の存在が確認され、両者は臨床病理遺伝学的に共通の発症機構に基づく疾患単位「ALS/FTD」として確立された。しかし現在まで国内外の研究を通じて、C9の生理学的機能と神経変性過程における役割は解明されていない。本研究では「C9遺伝子変異により惹起された標的遺伝子群の発現異常と結合タンパク質群のネットワークの破綻により、神経細胞死が誘導される」との独自の作業仮説を考案した。この仮説を検証するため、研究期間3年間でC9発現抑制系・過剰発現系運動ニューロン細胞株を樹立し、標的遺伝子群・結合タンパク質群・細胞内局在・発現制御機構を解析し、患者脳組織で検証して、C9の生理学的機能とALS/FTD発症機序における役割の解明を目指す。初年度(平成25年度)は、マウス運動ニューロン細胞株NSC34を用いて、C9発現抑制系と過剰発現系を樹立する。これらの細胞における遺伝子発現プロフィールをDNAマイクロアレイで網羅的に解析し、C9により発現制御される標的遺伝子群(C9-target genes; C9TG)およびその分子ネットワークを解明する。以上の目標はおおむね達せられた。
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今後の研究の推進方策 |
第2年度(平成26年度)は、プロテインマイクロアレイを用いて、C9結合タンパク質(C9-binding proteins; C9BP)を網羅的に解析して同定する。またC9変異陽性ALS/FTD患者剖検脳組織を免疫組織学的に解析し、変性神経細胞の封入体におけるC9BPの蓄積を検証する。最終年度(平成27年度)は、ヒト神経細胞株HB1.F3を用いて、C9の発現を正・負に制御する誘導因子をスクリーニングし、C9遺伝子発現制御機構を解明し、ALS/FTD発症機構におけるC9遺伝子変異の役割を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度(平成25年度)は、マウス運動ニューロン細胞株NSC34を用いて、C9発現抑制系と過剰発現系を樹立する。これらの細胞における遺伝子発現プロフィールをDNAマイクロアレイで網羅的に解析し、C9により発現制御される標的遺伝子群(C9-target genes; C9TG)およびその分子ネットワークを解明したが、研究経費は大学から補助された教室費でまかなうことが出来た。 第2年度(平成26年度)は、プロテインマイクロアレイを用いて、C9結合タンパク質(C9-binding proteins; C9BP)を網羅的に解析して同定し、C9変異陽性ALS/FTD患者剖検脳組織を免疫組織学的に解析し、変性神経細胞の封入体におけるC9BPの蓄積を検証する予定である。またC9変異iPS細胞を樹立して、病態解析モデルを確立する新しい研究計画も浮上した。その研究の遂行のために前年度の繰越金を活用する。
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