研究課題/領域番号 |
25430057
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
内原 俊記 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 副参事研究員 (10223570)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Neuromorphomics / 免疫電顕 / 量子ドット / シヌクレイン |
研究実績の概要 |
神経変性疾患は細胞体に先行して神経突起に病変がみられることを我々は明らかにしてきた(Brain 2008)。本研究は疾患特異的なこれらの突起病変をとらえて、早期臨床診断につなげる試みで、細胞体から神経突起へと視点を移した「神経突起病理学」を構築して、病態理解やそれをふまえた早期臨床診断に生かすことを目指す。 パーキンソン病早期から高度に脱落する心臓交感神経軸索に注目し、それを臨床的にとらえるMIBG心筋シンチグラフィーと軸索病変の関係を確立してきた。今回両者の定量的相関を確立することに世界で初めて成功した(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2015;86:939-44)。一方で臨床的鑑別が問題になるパーキンソン症候群のタウ病変形成過程を検討するために、新たな電子顕微鏡技術を世界に先駆けて完成し、タウ沈着早期像とされるpretangleの超微構造が疾患により異なることを初めて示した(Acta Neuropathol Comm 2014:2:161)。本研究は分子―超微形態―病変の広がり―臨床症状をseamlessにつなげることに成功している点類例がなく、従来と異なる視点から、疾患により異なる違いを早期診断に生かす上で不可欠の情報を提供できる。部分と全体をつなぐこの手法は、本研究をはじめとする最近の技術革新で初めて可能となりつつあり、神経系の機能や病態を観察する”Neuromorphomics”という学問体系を作ると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実績1:ヒト脳のαシヌクレイン病変は軸索分岐の豊富な系に好発し、軸索末端から細胞体へ向かって進展することを明らかにした。こうした構造を背景に、レヴィ病変は単巣性(focal)にも多巣性(multifocal)にもおこるが、そのはじまる部位や進展方向は一定しないことを示した。これをMultifocal Lewy body diseaseという新たな概念として提唱し国際誌に総説として発表した (Acta Neuropathol 2016:131:49-73)。Braakらは脳幹下部からレヴィ病変が上行するとの仮説を提唱したが、運動症状以外の多彩な症状(non-motor)が様々な順序で起こるレヴィ小体病での臨床的観察を説明できていない。好発部位に様々なパタンで広がるというMultifocal Lewy body diseaseという概念は多彩な症状をよりよく説明できる。 実績2:ヒト脳、実験動物脳での変性病変の広がりの異同を上記のαシヌクレイン、タウ、ベータ蛋白について総説集として編集し国際誌で発刊した (Acta Neuropathol 2016:131:1-3)。これらをすべてprionになぞらえて一様に説明する考え方があるが、ひろがりのパタンは疾患やタンパク毎に異なり、それこそが疾患の特徴を形作る”propagon”としてとらえなおすことを提唱した。 実績3:MIBG心筋シンチグラフィーと軸索病変の定量的相関を確立することに世界で初めて成功し本年度論文発表した。(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2015;86:939-44)。本研究は平成26年日本神経学会学術総会で最優秀ポスター賞を獲得している。さらに心筋内の軸索病変を検索するために剖検例の収集を50例程度まで拡大できた。 実績4: 海馬の神経原線維変化のタウ免疫原生は病変の進展に伴い4リピートタウ(4R)から3リピートタウ(3R)へ遷移するようにみえる。大脳皮質に先行して神経原線維変化が出現する脳幹を3R/4R蛍光2重染色して、標本全体をデジタル化し同様の遷移が起こることを定量的に明らかにした(投稿準備中)。
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今後の研究の推進方策 |
計画1:二重標識光顕・電顕法による3R/4Rタウ病変の観察:海馬や脳幹の神経原線維変化の進展に伴って起こる4Rから3Rの遷移はアルツハイマー病の根源的変化であることを確立した。その分子メカニズムに迫るために、3R/4Rの両エピトープを二重標識した免疫電顕を確立する。 計画2:心臓交感神経軸索末端に想定される最早期病変の同定と免疫電顕による検討:αシヌクレインは軸索末端から沈着するとこれまでの研究から想定されるが、軸索最末端の病変はこれまでとらえられていない。蛍光多重染色により心筋内軸索最末端をとらえたうえで、直接電子顕微鏡像に対応させることが、技術的には可能な段階にあり、ヒト心筋や大脳皮質での検討を加える。 計画3:遺伝子改変マウスにおける早期軸索病変をとらえる:現在αシヌクレイン高発現マウスなどで心臓交感神経軸索の変化を観察している。ヒト剖検脳に比してより観察に適した実験動物検体を用いて、より詳細な超微形態像を得る。 計画4:αシヌクレインやタウが他の分子と関連しながら突起内や細胞体に病変を形成する様子を蛍光多重染色で観察し、免疫電顕の多重染色としても比較する手法を開発して、疾患の構造的特徴を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の施設に平成27年度に導入された超解像度顕微鏡は、光顕像の解像度を大幅に向上させることが期待されるが、使用にあたっては相当の習熟が必要となる。超解像度顕微鏡の有効利用を主な理由に研究期間を延長した本年度は、これを駆使してさらに以下の研究の範囲を拡大する。
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次年度使用額の使用計画 |
光顕像と電顕像を直接比較できる標本作成に用いる試薬(量子ドット)の購入費用,標本作成の人件費,標本観察に要する特殊大型電顕使用料,最終年度にあたり論文や学会発表に要する費用などをそれぞれ計上した.
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