研究課題
基盤研究(C)
パーキンソン病は、中脳黒質ドーパミン神経の変性により引き起こされる脳神経変性疾患である。その原因としてミトコンドリア障害や酸化ストレスが挙げられるが、詳細は不明である。DJ-1は家族性パーキンソン病原因遺伝子PARK7であることが報告されている。DJ-1は3つのシステイン残基を有し、そのうち106位システイン残基(C106)のチオール(SH)基は非常に酸化されやすく、順次SOH、SO2H、SO3Hとなり、SO3H型まで酸化されたDJ-1は活性がないことを我々は報告している。このことから、C106の酸化修飾はDJ-1の様々な細胞内機能の調節に関わっていると考えられている。私は、DJ-1とその様々な結合タンパク質の相互作用の解析を行っている。そのうち、ペルオキシレドキシン群やp53、ベクリン、PTEN等は酸化ストレス下においてDJ-1との結合が増加することを見出した。また、DJ-1との免疫共沈降の実験では非還元状態でのSDS-PAGEを行うと、これらのタンパク質は分子量が大きくなることが示され、さらに、ベクリンは沈降物を還元試薬であるDTT処理すると結合が解離した。これらのことはDJ-1と結合タンパク質の間(分子間)にジスルフィド結合を形成することが示唆される。一方、CRISPR/Casシステムにより、DJ-1のノックアウト(KO)細胞の作製に成功した。DJ-1 KO細胞に酸化ストレスを処理をしたところ、PTENやベクリンの分子内ジスルフィド結合と考えられるタンパク質が修飾の減少が観察された。さらに、DJ-1は通常ダイマーを形成するこが、我々のグループにより単離されたDJ-1に結合する化合物は酸化ストレスによるダイマー分子内のジスルフィド結合の形成を減少することを明らかとした。以上のことから、DJ-1ははじめ、結合タンパク質と分子間のジスルフィド結合を形成し、後に結合タンパク質分子内にジスルフィド結合を形成することが示唆できる。
2: おおむね順調に進展している
これまでに殆ど報告のないDJ-1とジスルフィド結合するタンパク質を数種類ではあるが、単離できた意義は大きい。また、PTENの分子内ジスルフィド結合により、PTENのホスファターゼ活性が減少するとの報告があり、DJ-1とPTENに酸化ストレスを処理することで、in vitroでPTENのホスファターゼ活性が減少した。また、DJ-1結合化合物によりこの抑制は解除されることも明らかとなっており、実際にこの作用が細胞内で観察されるかを検討することが必要である。また、ベクリンとの相互作用による分子内ジスルフィド結合の形成の意義は、全く報告されていないことであるためにさらなる検討が必要であると考えられるため、検討することが残っていると考えている。このベクリンとDJ-1の相互作用については、パーキンソン病の原因となる異常ミトコンドリアの除去に関する重要な知見となる可能性があることから、特にマイトファジーの影響を詳細に検討する予定である。さらに、我々のグループにより単離されたDJ-1に結合する化合物によるDJ-1のジスルフィド結合に対する影響はin vitroでの検討は終了している。細胞内での検討は現在行っている。以上、これらのことからおおむね順調に進展していると考えられる。
PTENとDJ-1の関連は酸化ストレスに対する転写調節機構の重要な因子であるNrf2の活性調節に関与すると考えている。このDJ-1とPTENの相互作用はジスルフィド結合の形成を明らかとすれば、DJ-1のNrf2転写調節を介する抗酸化ストレス機能の細胞内シグナル伝達機構を詳細に解明できると考えられるため、さらに検討したいと考えている。同時に、DJ-1結合化合物によりPTENのジスルフィド結合を増加させることが示されつつあるので検討していく予定である。ベクリンはオートファジーに関連するタンパク質で、パーキンソン病の発症に関わるミトコンドリアのマイトファジーの分子機構の解明でき、発症メカニズムを明らかとすることが可能であるため、詳細に検討していこうと考えている。特にDJ-1のマイトファジー/オートファジーの影響については、現在促進するという報告と抑制するという報告があり、混沌としている状況であるが、DJ-1の酸化修飾によるマイトファジーの関与はこの状況を打開できると考えている。さらに、上記の研究に、DJ-1結合化合物を加えて検討することは、現在、根本的治療法のないパーキンソン病治療薬の礎となることが考えられるため、更なる解析を行う予定である。
細胞培養試薬・培養器具、オートファジーに関連する試薬の購入するための、物品費として使用し、物品は3月に納品された。4月に執行の予定である。上述の通り。
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