我々が細胞内トラフィッキングに関与するsmall Gタンパク質であるクラスII ARF遺伝子のKOマウス(以下、Tremorマウス)を作製したところ、生後3週目から前脚と頸部に強い振戦を示した。我々がこのマウスの示す振戦がヒトのどの疾患の病態を示しているのかについて各種薬剤を用いて検討した結果、Tremorマウスにβ遮断薬であるpropranololや抗てんかん薬であるgabapentinを投与すると振戦の軽減が見られた。このことから本態性振戦モデルマウスの可能性が高いことが分かってきた。 このTremorマウスに関する解剖学的解析を行ったところ、小脳プルキンエ細胞の樹状突起上にAMPA受容体の免疫染色性の異常に大きな塊が見られた。これを電子顕微鏡にて観察したところ、多層化した小胞体のような殆ど報告例の無い構造物が見られた。 また、小脳の体積の減少、プルキンエ細胞の樹状突起上におけるスパイン密度の増加、小脳登上線維の長さの減少等、解剖学的な異常が小脳において集中してみられた。 小脳プルキンエ細胞の電気生理学的解析を行ったところ、Tremorマウスの活動性が大きく低下していた。この反応性がプルキンエ細胞の軸索起始部に局在するNav1.6のKOマウスの電気生理学的特性に似ていることから、我々は、Nav1.6について解剖学的に調べてみた。その結果、Tremorマウスにおいては、プルキンエ細胞におけるNav1.6の免疫反応性が著しく低下していた。 以上の結果より、クラスII ARFの欠失により、プルキンエ細胞においてNav1.6のトラフィッキング異常が起き、プルキンエ細胞の電気生理学的特性が変化することで震戦が起きる可能性が示唆された。
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