研究課題/領域番号 |
25430070
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 奥羽大学 |
研究代表者 |
関 健二郎 奥羽大学, 薬学部, 講師 (50342803)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | てんかん発作 / AMPA受容体 / GluR2 / HCNチャネル / 細胞内トラフィッキング / マウス / 海馬 |
研究概要 |
女性てんかん患者の70%以上が経験する月経てんかんは、月経前のエストロゲン濃度上昇と発作の時期が相関する事から、エストロゲンが月経てんかん発作の危険因子と考えられてきた。その作用は細胞実験などにおいても支持されている一方、エストロゲンがてんかん発作後の神経細胞保護作用を有するという相反する効果も多く報告されている。そのため、予防法や治療法がいまだに確立されていないというのが現状である。これまでの予備的結果から、エストロゲンがHCN1チャネルの効果を低下させ、てんかん発作を誘導する可能性と、AMPA受容体GluR2サブユニットの細胞内トラフィッキング阻害作用による神経保護効果の可能性を見出してきた。これらの実験結果が、てんかん発作の閾値や重症度に関与している可能性を考えめ、初年度はエストロゲンによって生じる①GluR2の細胞内トラフィッキングの阻害効果と、HCN1チャネルの細胞内トラフィッキングの促進効果がてんかん発作のどの部分に影響を与えているかについて検討を行った。これまでのところ、GluR2の細胞内トラフィッキング阻害効果は、発作の閾値とは無関係である一方、発作の持続時間や呼吸麻痺関連死の阻害に関与している可能性を示唆する結果が得られている。これに対し、HCN1チャネルの細胞内トラフィッキングの促進効果が卵巣摘出マウスで認めらないため、卵巣摘出による影響を調べることで解決の糸口が見つかる可能性を示唆する結果を得ている。事実、HCN1チャネル阻害剤の脳室内投与による実験でもそれを示唆する結果が得られている。これらの結果から、当初初年度に予定していた実験計画である「エストロゲンによるHCN1チャネルの細胞内トラフィッキング促進効果の細胞内メカニズム」と平行し、26年度の研究計画に予定していた「GluR2の細胞内トラフィッキング阻害効果の細胞内機序の解明」を同時に進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度は、①エストロゲンによるGluR2の細胞内トラフィッキングの阻害効果や、②HCNチャネルの細胞内トラフィッキングの促進効果が、それぞれがてんかん発作のどの部分に関与しているかについて検討してきた。これまでエストロゲン投与群で観察された、GluR2の細胞内トラフィッキングが阻害された状態を模倣するため、GluR2欠損AMPA受容体だけを特異的に阻害するNaspm をGluR2のリン酸化のタイミングに合わせて脳室内に注入したところ、最初の異常行動が生じるまでの時間に影響は無かったが、エストロゲン投与群と同様に痙攣発作までの時間を有意に延長した。さらに発作の持続時間が有意に短く、またてんかん発作による呼吸麻痺関連死の割合が有意に低下した。この結果から、エストロゲンは興奮伝播の程度を減少させ、呼吸中枢過剰興奮よる呼吸麻痺関連死を低下させる可能性を考えている。一方、卵巣摘出マウスでは、エストロゲンによるHCN1チャネルの細胞内トラフィッキングの促進効果や、最初の異常行動までの時間短縮を消失させることが分かった。このことから、卵巣非摘出マウスと摘出マウスの相違がエストロゲンによるてんかん発作の閾値の低下に関与している可能性が示唆され、これらはHCN1チャネルの阻害剤であるZD7288の脳室内投与による実験からも明らかとなった。一方、エストロゲンによるGluR2の細胞内トラフィッキングの機序に関しても研究を進めており、エストロゲン投与群では、PKCの過剰活性化が関与しており、当初想定していたSTEPは、無関係である可能性を示唆する結果が得られている。これに対し、HCN1チャネルのトラフィッキング促進効果には、mTOR等の関与の可能性を示唆する予備的結果が得られている。したがって、当初の研究実施計画の順序に変更が生じたものの、おおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は、以下の2つに集中して検討を行う。 1) 初年度に得られた結果の一つであるエストロゲンによるPKCの活性化とてんかん発作との関連およびGluR2セリン残基のリン酸化との関連性を明らかにする。本研究では、エストロゲン受容体の種類を種々の阻害剤等を用い、どのタイプの受容体がPKCの活性化やGluR2のセリンリン酸化を促進しているかを検討する。これまでの過去の報告から、PKCの活性化とGluR2のリン酸化との関係が示唆されていることから、本研究ではエストロゲンがどの種類の受容体を活性化しているかを種々の受容体阻害剤を脳室内に投与し、てんかん発作の程度や閾値を調べながら、明らかにする。 2) 卵巣摘出マウスと非摘出マウスの相違とエストロゲンによるHCN1チャネルの細胞内トラフィッキング促進効果との関連を明らかにし、そこから細胞内機序の推定を図る。これまで非摘出マウスを用いた実験から、エストロゲンの腹腔投与によりコリン作動性神経の過剰興奮が誘導され、これらが卵巣摘出マウスではその程度が小さい可能性を示唆する予備的結果を得ている。本年度は、これらを明らかにし、どの受容体がコリン作動性神経の活性化に関与しているかを検討する。一方、細胞内機序としてmTORの活性化の関与を示唆する予備的結果を得ており、例数を増やすことで明らかにし、それらを指標に、どのタイプのエストロゲン受容体がそれに関与しているかを種々の阻害剤を脳室内投与し、発作の閾値を指標にして明らかにする。 3) 上記1と2で、種々の受容体の関与を明らかにし、GluR2細胞内トラフィッキング阻害効果とHCN1チャネルの細胞内トラフィッキングの促進効果に共通した機序が存在するのか、あるいはそれぞれが異なる受容体を介して独立して生じているのか、活性化の種類やタイミングを意識して検討を加え、細胞内機序の解明に結びつけることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入したいくつかの試薬の金額が、Web上で提示されていた額よりも安かったため。 次年度に予定している研究計画に基づき、主に消耗品の購入に使用する予定である。
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