申請者は月経随伴性てんかんの病態理解を目的とし、平成26年度(2年目)までの2年間で、エストロゲン(17-βestradiol; E2)がHCN1チャネルの細胞内トラフィッキングを誘導し、発作閾値が低下する可能性と、AMPA受容体GluR2サブユニットの細胞内トラフィッキングを阻害して神経保護効果を発揮している可能性を見出してきた。また、E2によりカルパイン(Calpain 1)のタンパク量が増加し、E2によるCalpain 1の活性化とSTEP61によるGluR2のチロシン残基の脱リン酸化阻害が関与している可能性を示唆した。平成27年度(最終年度)は、覚醒下のマウスの脳室内にCalpain 1を微量注入し、E2処置後のてんかん発作の重責発作軽減作用や脳保護効果に及ぼすCalpain 1の効果と、Calpain 1投与群のSTEP61および46の発現量を調べ、E2によるGluR2細胞内トラフィッキング阻害効果と重積発作軽減及び保護効果にCalpain 1やSTEP61または46が関与しているかを検討した。その結果、STEP61および46の発現量は減少した。さらに、脳室内にCalpain 1を投与したマウスではE2による重責発作の軽減作用や脳保護効果が阻害された。この結果から、E2によるGluR2のinternalization阻害効果および重責発作軽減作用さらには脳保護効果が、Calpain 1の活性化とSTEP61による脱リン酸化の阻害がGluR2のinternalizationを阻害している可能性が示唆された。一方、E2がPKCαを介し、mTORのリン酸化または70S6Kのリン酸化が関与しているかどうかを検討したところ、E2投与群でもmTORのリン酸化レベルに顕著な相違は認められなかった。またCalpain 1脳室内投与でもE2によるHCN1チャネルのinternalization 促進効果や発作閾値上昇効果に変化は認められなかった。E2によるHCN1チャネルのinternalization 促進効果と発作閾値の低下がどのような機序を介して生じているかは期間内に同定するまでに至らなかった。
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