研究課題/領域番号 |
25430071
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
岡田 大助 北里大学, 医学部, 講師 (10211806)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | NMDA受容体 / 樹状突起スパイン / プロテインキナーゼG / D-セリン |
研究実績の概要 |
ラット初代培養海馬神経細胞に発現させたHomer-1a・EGFP融合タンパク質(H1a-EGFP)を樹状突起からスパイン内に輸送する仕組みを調べるうちに、NMDA受容体チャネル活性に依存した輸送調節の他に、イオンチャネル活性を介さないNMDA受容体依存的な仕組みを示唆するデータを得た。このNMDA受容体の構成的活性の実在を検証し、分子的な仕組みの解明を通じて、種々の精神疾患で見られるシナプス後部分子構成の異常の原因の理解につなげることが本研究課題の目的である。FRAP法を用いてH1a-EGFPの樹状突起からスパイン内への輸送の仕組みを精査し、NMDA受容体構成的活性の薬理学的な検索とリガンド結合の有無で相互作用の変化するタンパク質の生化学的手法による同定を試みた。これまでに、H1a-EGFP の単一スパインでのFRAPにはNMDA受容体チャネルを介したカルシウム流入で始まりプロテインキナーゼG(PKG)の活性化が必要十分である活動依存的な仕組みと、カルシウム流入によらずにおきるがNMDA受容体のD-セリンサイト拮抗薬やポア部ブロッカーによって阻害される仕組みの二つがあることが分かった。D-セリンサイト拮抗薬によるFRAPの阻害はD-セリンによって拮抗・解消されたが、PKGを直接活性化してもFRAPは再開しなかった。NMDA受容体のリガンドで調節されるがチャネル活性に依存しない輸送活性がNMDA受容体の構成的活性として実在すると結論した。生化学的手法によりGluN1サブユニットとスパイン内輸送系との間の相互作用を検出する試みを行い、リガンドによって相互作用が変化するタンパク質を検出したので更に検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラット海馬初代培養神経細胞に異所性発現させたH1a-EGFPの樹状突起からスパインへの輸送を直接観察するために、単一スパインにレーザーを照射して蛍光を退色させた後の輸送による蛍光回復を測定する方法(光退色後蛍光回復法=FRAP)を開発した。シナプス活動依存性のH1a-EGFPのFRAPは、自発発火等のシナプス活動によるNMDA受容体依存性カルシウム流入、一酸化窒素、サイクリックGMP、PKG活性化のカスケードにより起きた。カスケード各ステップの阻害剤を1-2時間投与するとH1a-EGFP のFRAPを阻害したが、EGFPのFRAPは阻害しなかった。長期投与の必要性からPKGの効果が持続性と思われる。阻害の後、直接PKGを活性化するとFRAPが回復するのでPKG活性化が必要十分である。一方、構成的輸送調節はこれと異なる特徴を持っていた。1)カルシウム流入を必要としない、2)EGFPのFRAPにも必要である、3)NMDA受容体GluN1サブユニットD-セリンサイト拮抗薬DCKAやCGP78608、及び同受容体ポア部近傍に作用するとされる解離性麻酔薬ケタミンは、20分程度の短期間の投与でH1aEGFP及びEGFPのスパイン移動を阻害し、これらの阻害剤の存在下ではPKGの直接活性化によってもFRAPは起きない。このように、シナプス活動依存性と非依存性の二つの輸送調節があることが明らかになった。NMDA受容体ポアブロッカーMK801は両経路に影響があると思われる。二つの仕組みの関係はまだ不明確である。NMDA受容体と輸送系の相互作用をウエスタンブロッティングや免疫沈降による分子間相互作用解析によって検討し、DCKAにより相互作用が変化するものを検出したが同定には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
シナプス活動非依存性のFRAPの観察から、H1a-EGFPのスパイン内輸送機構がNMDA受容体との相互作用で調節される仕組み、即ちNMDA受容体構成的活性、が想定される。GluN2サブユニットへのグルタミン酸結合でチャネルポアが開くためにD-セリンやグリシンの結合は必要で、三次構造解析の研究によれば、D-セリンはNMDA受容体GluN1サブユニットの細胞外領域からポア部に至るポケットに結合することでポア構造を変える(Furukawa & Gouaux, EMBO J., 2003)。一方、MK801はポア内部に結合しポア構造を変える(Lee et al. Nature 511, 2014)。これらがFRAPに対し同様の作用を持つことから、GluN1のポア構造変化が細胞内領域に影響を与え、それがスパイン内輸送系と相互作用している可能性が考えられる。ポアブロッカーMK801 とGluN2拮抗薬AP5のFRAP阻害様式が異なることからもポア周りの構造と構成的活性の関係が想定できる。免疫沈降などの生化学的手法によりリガンドの有無で相互作用の異なるタンパク質を幾つかを検出したので、更に質量分析などにより精査し相互作用とその調節を確認することで構成的活性の実体を解明する。 二つのFRAPの仕組みの関係を明確にすることで、構成的活性の機能的な意味づけをする。二つの可能性即ち、構成的活性はD-セリン濃度の維持により保たれ、PKG活性が細胞外D-セリン濃度の維持に関わる可能性(PKGがD-Serineの上流)と、D-セリンの結合は輸送系構築(例、アクチン線維係留)に、PKGは実行に(例、ミオシンリン酸化)夫々必要である可能性(両者は独立)がある。D-セリンでPKG阻害が解除できるか、D-セリン濃度、ミオシン活性、アクチン動態を変えた影響をFRAPや生化学実験により検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
樹状突起からスパイン内へのタンパク質輸送がNMDA受容体活性により調節されること、この調節はNMDA受容体のイオンチャネル活性を要するものと、それ以外のおそらくはタンパク質間相互作用による調節によるものがあることが分かったが、更に両調節機構の相互関係を決定する実験などが必要であり、決定が可能なキープロトコールを幾つか見出したところである。また、後者の相互作用の実体についても候補タンパク質が検出された所である。これらの実験を更に行うことで、本研究の成果を論文にまとめることができる。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の研究推進方策に示したFRAP実験と生化学実験を行うため、繰り越した予算は主に質量分析の費用と動物代に充てられる。
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