神経変性疾患の中でも特に遅発性のアルツハイマー病(AD)の発症機構や進行を調節しうる新たな分子標的の候補の一つとして、我々はAD関連蛋白質の細胞内輸送やプロセシングを調節することを示したSyx5 (シンタキシン5)を含むER/GA-SNARE (小胞体/ゴルジ-スネア)に注目して研究を行った。神経芽細胞腫由来の株化培養細胞ならびにラット海馬由来の初代培養海馬神経細胞にERストレス負荷を行うと、Syx5アイソフォームを含めた一部のER/GA-SNAREの新規蛋白合成が誘導され、それは転写レベルの上昇に起因することを見出した。同時に、ERストレス負荷は内在性のbAPPプロセッシングを阻害すること、それはSyx5蛋白質を発現抑制させることにより回復できることを明らかにした。さらにそれらER/GA-SNAREの発現量の増大は調べた他のSyxでは見られない特有なものであった。またアポトーシスを直接誘導することやERストレス誘導性の細胞死が実行されるとSyx5は積極的に活性型Caspase3により分解されること、ERストレスによるSyx5発現誘導を抑制すると神経細胞の脆弱性が増すことも示した。ERストレス誘導性オートファジーの活性化とSyx5 の発現量との間には正の相関があり、Syx5の発現上昇はオートファジーフラックスの後期プロセスにおいて重要であることを見出した。 細胞はストレスに対抗して全般的な翻訳抑制を行う一方、ごく一部の蛋白質のみが増加する。その数少ない蛋白質の1つがERストレスとオートファジーのクロストークに関わるERストレス応答因子Syx5であることがわかった。これら当該課題研究により得られた一連の結果より、ER/GA-SNAREの中でも特にSyx5が後期のERストレス誘導性オートファジー経路に関与し、同経路とAD関連蛋白質分解系を仲介する役割があることを明らかにできた。
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