研究課題
平成25年度に得られた結果を基に、脂質代謝酵素や細胞膜構成成分の変化について検討を行った。まずはじめに、マウスより各脳部位を採取し、アルコール代謝酵素 (アルコールデヒドロゲナーゼ:ADH,ミクロゾームエタノール酸化系:MEOS(CYP2E1),アルデヒドデヒドロゲナーゼ:ALDH) の局在について検討を行った。その結果、大脳皮質、海馬、側坐核、扁桃体、視床下部、腹側被蓋野、橋・延髄領域においてADHおよびALDH2の発現が認められた。一方、CYP2E1は脳の各部位においてほとんど発現が認められなかった。そこでアルコール慢性処置時におけるADHならびにALDHの変化について検討したところ、対照群に比べアルコール慢性処置動物の腹側被蓋野領域ではALDH2蛋白質の有意な発現増加が認められた。一方、ADH蛋白質については対照群に比べアルコールを慢性処置しても有意な変化は認められなかった。次に脳内でのアルコール摂取による脂質代謝系の変化についても検討を行った。その結果、上記のALDH2の変化が認められた腹側被蓋野領域において、アルコールを慢性処置した動物では脂質代謝酵素 (ホルモン感受性リパーゼ:HSL) の有意な増加が認められた。そこで実際に、アルコール慢性処置時における腹側被蓋野領域での脂質の変化について、LC-MS/MSを用いて検討した。ホスファチジン酸 (PA)、ホスファチジルグリセロール (PG)、ホスファチジルセリン (PS)、ホスファチジルエタノールアミン (PE)、ホスファチジルコリン (PC) ならびにホスファチジルイノシトール(PI)について検討したところ、アルコール慢性処置したマウスの腹側被蓋野領域において、PIの有意な増加が認められた。以上の結果より、アルコール慢性処置により腹側被蓋野において脂質代謝系が変化する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の研究目的である、アルコール摂取における脂質代謝酵素や細胞膜構成成分の変化、さらには脳機能における脂質メディエーターの変化および役割について検討を行うことが出来たことから、おおむね順調に進展していると考えられる。
平成26年度まで概ね研究計画通りに遂行出来ていることから、27年度は26年度まで得られた結果を基に、アルコール摂取動物および初代培養神経細胞・グリア細胞を用いて、caveolin 等を指標に脂質ラフトでの機能性タンパク質局在の変化の解析を行い、その因子と神経の可塑的変化との生物学的相関性を確認する。また、脂質メディエーターとして 2-arachidonoylglycerol (2-AG) やプロスタグランジン類が知られており、cocaine などの依存症に関与することが報告されている。そこでこれらの生合成・代謝に関わる diacylglycerol lipasesα (DAGLα) や phospholipase A2 (PLA2)、cyclooxygenase などの変化についても同様の検討を行い脂質メディエーターを含めた脂質代謝経路のアルコール依存症への関連性について包括的かつ多角的に検討する。さらに、アルコール急性および慢性摂取が、脳内における関連部位、特にドパミン神経系を中心にアルコールに対する神経応答へ与える影響や関与する因子について検討する。上述の関連制御因子が確定出来なかった場合は、アルコール摂取動物よりサンプルを作製し、二次元電気泳動法や DNA microarray を用いて神経の可塑的変化調節因子を中心とした模索的探索的検討を行い、脂質代謝に関連する因子を同定し同様の検討を行う。
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