家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)タイプ6の患者のTLS/FUS(以下TLS)遺伝子には特異的な点変異が存在し、さらにFALSタイプ6患者の脊髄運動ニューロンにおいてTLS変異体の蛋白凝集体が認められることから、TLSの機能不全が進行性運動神経変性を誘導し、その結果としてFALS6を発症すると考えられる。私たちの脊髄運動ニューロンのモデル細胞株NSC-34を用いた先行実験の結果では、正常なTLSも強制発現させると細胞内で凝集体を形成し、またFALS6特異的な点変異体TLSと正常TLSを共発現させた場合には、むしろ蛋白凝集体形成が増強された。さらにTLS点変異体を強制発現した場合においても、オートファジーマーカーの活性化は認められなかった。そこで本研究では、本来のTLSのRNA輸送および転写調節における機能に着目し、TLSを介して起こる選択的なRNA代謝調節が破綻することによりFALS6が発症する可能性を検証することにした。平成25年度と平成26年度には、RNA小胞の細胞内輸送に関与するTLS結合蛋白(例:ミオシンⅤ)とTLS点変異体との会合体形成自体は正常であること、また細胞質-核間移行がTLSのC末のリン酸化依存的であることを見出した。最終年度には、正常TLSが神経過興奮誘導後にその翻訳を阻害するようなCa2+透過性の高いNMDAレセプターサブユニットNR1のスプライスバリアントmRNAのレベルがTLS点変異体を強制発現した場合には定常状態よりも上昇しており、過興奮を遷延化する神経毒性を発揮するmRNAの翻訳が起こることを明らかにした。このことは、TLS変異体が発現する場合には、本来神経活動依存的に転写活性が抑制されるべきmRNAが合成・翻訳されてしまうことにより、過興奮による運動神経変性が誘導されやすくなっていることを示唆する。さらに正常なTLSの発現下では、不要なmRNAが細胞質内に停留した後、翻訳されないままExosomeにより細胞外放出されることを示唆するデータが得られた。
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