研究課題/領域番号 |
25430086
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
小池 亨 静岡大学, 理学研究科, 講師 (20377716)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 肝臓 / 肝再生 / 肝前駆細胞 / Pdx-1遺伝子 |
研究実績の概要 |
肝前駆細胞は多分化能性を持った未分化な細胞であり、肝障害時に増生して肝再生に寄与する。本研究は、肝前駆細胞におけるPDX-1転写因子の発現に着目し、その細胞特性・動態制御におけるPDX-1の役割を明らかにする事を目的としている。 まず初めに、近交系フィッシャーラット由来の肝前駆細胞株を用いてPdx-1遺伝子の発現を改変し、in vitro培養系・細胞移植/肝障害誘導実験系での細胞特性・細胞動態の解析を行うための実験系の確立を試みている。細胞への遺伝子導入法には、Viafect、及びPEIを用いた手法が有効であることがわかった。Pdx-1強制発現実験系として、Tol2トランスポゾンシステム、及びTet-Onシステムを用いた効率の良い強制発現・誘導的発現系を確立した。一方、Pdx-1遺伝子発現の抑制には、CRISPR/Cas9ダブルニッカーゼ法を用いた相同組換え法による薬剤耐性遺伝子の標的部位への挿入による遺伝子破壊を試みた。その結果、T7エンドヌクレアーゼIアッセイ、及びPCR法によりターゲティングによる遺伝子破壊を確認した。現在、Pdx-1遺伝子発現変異細胞株の単離とin vitro培養系でのその表現型解析を進めている。また細胞移植/肝障害誘導実験系での解析に向け、フィッシャーラットへのガラクトサミン肝障害の誘導条件を決定した。 次に、同じく近交系フィッシャーラット由来のES細胞を用いてPdx-1遺伝子の破壊ラット、及びPdx-1発現細胞標識ラットを作製するためのコンストラクトの作製を進めている。同時に、ES細胞への遺伝子導入法の検討と上記CRISPR/Cas9法を用いたターゲティング法によるPdx-1遺伝子破壊を試みており、同様に遺伝子破壊の陽性シグナルを得ている。今後、ターゲティングされたES細胞をシングルクローン化し、遺伝子改変ラットを作製していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝前駆細胞への効率の良い遺伝子導入方法を決定することができ、作製したプラスミドの確認などが順調に進んだこともあり、Pdx-1遺伝子の効率の良い過剰発現系としてTol2トランスポゾンシステムを用いたプラスミド、及びTol2トランスポゾンシステムとTet-Onシステムを組み合わせた誘導的発現系を確立した。また、Pdx-1遺伝子の発現抑制実験では、当初予定のRNAiシステムが思うように働かなかったため、ストラテジーを変更してCRISPR/Cas9システムを用いたターゲティングによるPdx-1遺伝子の直接的破壊を試み、成功した。これに関しては、次年度に予定していたラットES細胞でのターゲティングにも成功している。今後はこれらを用いて作製した、Pdx-1遺伝子発現を改変された肝前駆細胞株を用いることで、PDX-1の役割を明らかにすることができる。一方、Pdx-1遺伝子発現細胞を標識するシステムとして、当初予定していた通りにPdx-1遺伝子のプロモーターを含む上流域(-11kbp)をクローニングしてその下流にEGFPを繋ぐトランスジェニックコンストラクトを作製したところ、プロモーターの活性化が十分に観察できなかった。このため、これに関してはストラテジーを変更し、上記CRISPR/Cas9システムを用いたターゲティング法を用いてPdx-1遺伝子座に直接レポーター遺伝子を導入することを試みる。
|
今後の研究の推進方策 |
1. Pdx-1遺伝子強制発現ベクター・誘導的発現ベクターを導入した肝前駆細胞株、及びCRISPR/Cas9システムとターゲティングベクターを用いたPdx-1遺伝子ノックアウト株(Pdx-1遺伝子発現改変株)を用いて、in vitro培養系での細胞特性(細胞増殖活性、分化誘導培養での肝細胞・胆管細胞の分化、細胞の遊走能)の解析を進める。 2. Pdx-1遺伝子発現改変株を、同系統のフィッシャーラットへ移植・肝障害誘導実験を行い、肝障害・肝再生過程における移植細胞の動態を探る。 3. Pdx-1発現細胞を遺伝的に標識するためのターゲティングコンストラクトの作製と、それを用いた肝前駆細胞株、およびラットES細胞へのターゲティングを行う。ターゲティングした細胞にてPdx-1遺伝子発現に応じて細胞が標識されるかを、in vitroでの分化誘導培養によって確かめ、細胞移植実験や遺伝子改変ラットの作製に用いる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
H26年度後期に、肝前駆細胞株の入手先から購入した細胞がマイコプラズマに感染していた(購入した細胞がすでに感染していた)との連絡があり、その除染・確認対応に多少時間がかかってしまった。そのため、肝前駆細胞を用いた分化培養実験を次年度に回してES細胞を用いた実験を進める対応を取った。そのため、肝前駆細胞の分化培養実験に用いる試薬の購入、およびその成果の論文投稿代を次年度使用することとした。
|
次年度使用額の使用計画 |
論文校閲:100,000円 細胞増殖因子等培養関係試薬:96,629円 次年度使用額 計196,629円
|